『それでは、今日も街の平和を守りきったヒーローから! ひとことお願いします!』
テレビ画面には、爽やかな笑顔の青年が映っていた。身にまとう黒い特殊スーツはぼろぼろで、ところどころ焦げ跡がついている。
レポーターからマイクを向けられても、慣れているのだろう、青年は堂々とした様子で答えた。
『えー、いつも同じことを言って恐縮ですが。
世界中の誰もがみんな、安全で安心な生活を送る権利があります。
それを守ることこそが、僕らの使命です!!』
彼が言い終えるやすぐに周囲から盛大な拍手が起こって、「いいぞー!」「ありがとー!」なんて彼を讃える声がいくつも上がった。
画面の奥には、普通自動車くらいのバカみたいな大きさのトカゲが仰向けに転がっているのが見える。
それは、突如街に現れるようになった、正体不明の怪物たちのうちの一体だった……。
わたしが病室に入ったとき、兄はまだテレビを見ていた。
「……呆れた。はやく寝ないと、治るものも治らないよ」
そう言ってリモコンでテレビの電源をぷつりと切ると、兄は「あっ」と声を上げた。
「なんで消すんだよ。俺の勇姿が放送されてたのに……っ痛てて」
振り返る兄のその顔は、今日怪物を倒したヒーローその人。
兄はかっこよくインタビューを受けたのち、この病院に担ぎ込まれたのだった。……まあ、いつものことだ。
「今日は骨折してるんだから。安静にしなきゃ、お兄ちゃん」
「肋骨と脚だけだろ、すぐに治して復帰してやるさ」
「……そっか」
ずっと聞きたくても聞けないことがあった。
ねぇお兄ちゃん。
この仕事いつまで続けるの?
いつも全身ぼろぼろになるのに?
ねぇ、お兄ちゃん。
『誰もがみんな安全で安心な生活を送る権利がある』って言うけど。
その『みんな』には、お兄ちゃん自身は含まれないの……?
『誰もがみんな』
2/11/2024, 3:03:14 AM