きゅうり

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朝、目を覚ますと決まって昨日と同じ天井が見える。
そこまでは当たり前だ、別にいい。
スマホのロック画面を開く。そこに表示された日付は昨日ときっかり同じ、2月21日を指していた。
昨日と同じ。ありえない。
そこで私は溜息を着く。この日を迎えるのは何回目だろうか。と

私は毎日21日を迎えている。
いつからだったか、何回目の21日か、そんなことも忘れてしまうほどにずっと前から。

カーテンから差し込む日差しも、会社に向かう時にすれ違う人も、流れるニュースも全部おなじ。
社会は規則的に、21日を毎日こなしている。
21日を毎度迎える私が飽き飽きするほどに。

きっかけがなんだったのかはわからない。だから、繰り返す21日のトリガーが何なのか見当もつかない。

繰り返す21日をこなしていくうちに、どうやら私は頭が狂ってしまったようで、自分が会社に通う人間で、女で、どこに住んでいるのかぐらいしかわからなくなっていた。

つまり、最初の21日にどんな気持ちで目覚めて、どんな気持ちで今までの日々を過ごしていたのかすら分からなくなっていたのだ。

何となくそりゃ、そうだろうなと思った。だって、最初の21日から、自分の自我と感情だけは蓄積されるのに周りは一向に変わらず、淡々と全く同じ日をこなすのだ。同じ21日を0から。
気が狂って、記憶が飛ぶのもわかるだろう。

頑張って思い出そうとしたら、最初の21日の時に自分が凄く楽しみな気持ちを持っていたような気もするし、酷く憂鬱な気持ちだったような気もしてきた。


でも今の私からしたら、もう最初の私がこの日をどんな気持ちで迎えたかなんて正直どうでも良くなってしまっていた。

21日が繰り返された当初は、明日の自分のことも思って、規則正しく過ごしていつも通りに会社に通っていた私だった。でももう、同じような日々には嫌気がさしてしまったのだ。

こうして私は、今回の21日からは責任など全て放棄して全てやりたいようにやる事を心に決めてしまった。

手始めに、段々と嫌気がさし始めていた面倒臭い会社を辞めた。そして、部屋の掃除をすることにした。
繰り返される同じ日の中じゃあまり把握出来ていなかったが、どうやら私は自分の部屋を掃除できないほどに追い込まれていたらしい。
部屋の中は荒れ果てていて、あちらこちらに自分の生活の堕落っぷりを指し示すような惨状が広がっていた。

そんな部屋を掃除している途中、一つのアルバムを見つけた。今の私には、当然、見覚えがない。

ペラりとページをめくってみて、写真を目に入れた瞬間流れ込むようにして記憶が流れ込んできた。
家族や友人、大切な人との暖かい記憶、自分がどんな人間であるかを知れるような日々の記憶が。


そして、同時に私は思い出した。自分がどんな思いで、最初の21日を迎えたかを。

思い出した途端に、泣き出したくなった。本当の私が迎えた最初の21日に感じていた絶望を思い出して、気づけなかった、自分が自ら手放してしまった日常と自分自身の大切さにようやく気づいて。

あぁ、どうしても明日が迎えたい。
自らの手から手放してしまった、絶望のあまりに投げ出してしまった命をもう一度迎えたいと強く願った。

とたん、眩い閃光に私は身を包まれた。
身を包んだ光は私の身体をふわりふわりと浮かせていって、いつの間にか現れたトンネルの出口のような場所へと私を導いた。段々と出口は近づいて、そこをくぐり抜けたと同時に、、、


パチリと音がするように私は目をあけた。
今度は、見覚えのない部屋の天井だった。

胸にはぺたぺたと線の繋がったシールが貼られていて、線を辿ると電子機器が私の鼓動に合わせてピッピっと規則正しく脈を打っている。

ジャっと勢いよく、仕切りのカーテンか何かが開けられる音がして、白衣を着た女性が入ってきた。女性は、私の顔を見て目を見開いた。

目を覚ましたかと、名前を呼ばれて驚かれるが、私は彼女に一番に聞きたいことがあった。

長いこと口から水を摂取してないせいで酷く喉は乾いていたが、何度か声にならない声を出したあと、私はようやく彼女に大事なことを尋ねることが出来た。

「今日、は、何、月何日で、すか。」

彼女はそんなことよりも私の健康を早く確かめたかったようだが、質問にはすんなりと答えてくれた。

「4月6日です。」

彼女の答えを聞いてようやく私は不安が払拭された気持ちになった。

あぁ、やっとだ。
やっと、私は21日では無い日を0から始められる。






――望むのは。

お題【0からの】










2/21/2024, 4:18:27 PM