泡になりたい
「なぁ、もしもの話なんやけど、人生に幕を下ろすならどんな風に下ろしたい? 」
2人で学校からの帰り道を歩いていた時に、隣を歩いていた親友がそんなことを話し出した。
「人生に幕を下ろすなら? うーん、俺は思いつかへんなぁ」
人生に幕を下ろすなんて考えたこともなかったから、俺は何も考えつかなかった。「そういうお前はなんかあるん? 」と彼に問うてみる。
「俺はなぁ、人魚姫みたいに泡になって消えてしまいたいなぁって思ってんねん」
「泡になって消える? なんでそれがええの? 」
頭の中に、おとぎ話の人魚姫のラストが過ぎる。
好きな相手は別の女性と結婚してしまい、魔法のナイフを姉から渡されるも、好きな人をナイフで刺すことが出来なかった人魚姫は、ナイフを海へ投げ捨て、自ら海へと身を投げ、泡になって消えたというストーリーだったはずだ。
「泡って綺麗やん? なんか、自分の汚い思いとか全部綺麗になって消えてくれたらいいなーって思ってさ」
「でも、それやと後にはなんも残らへんやん、遺骨も遺灰も」
「それでええねんって、なんも残らへんのがええんやん! 」
その言葉に俺は少しモヤモヤした。この世界から完全にこの親友が消えてしまうというのが悲しいのか、残される側にもなって欲しいと考えてしまう。
「俺はお前がなんも残らず消えてしまうのは嫌やで、せめて遺灰くらいは残していけ」
「えぇ、なんでなん? お前は関係ないやん、それとも海にでも撒いてくれんの? 」
「少しでも残るんやったらそっちの方がええやろ……」
そう言ってから自分が恥ずかしいことを言っていることに気が付いてそっぽをむく。珍しく自分らしくもないことを話したなと思って、目線だけを親友に向けると、親友の顔は赤く染まっていて、思わず目を見開いて驚いてしまう。
「アホ……恥ずいこと言うなよ」
「え、ご、ごめん」
その後の帰り道には気まずい空気が流れて、俺が泡になって消えたくなった。
8/6/2025, 8:11:48 AM