未知亜

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ㅤそっちじゃないと心が騒ぐ。だけど私は進むのをやめられない。どうしていいか分からない。なぜこんなところに来てしまったのだろう。
ㅤはじめてついた嘘を覚えてる。磨いてない歯を磨いたと言った。母は追求したりはしなかった。ドキドキしながら布団に入った。その後も嘘は重なっていった。テストはまだ返ってきてないとか、あの子が悪口言ってたよとか。ひとつひとつは他愛ないこと。なのにそのたび、小さな心のざわめきをみていた。
ㅤつきとおしていれば、そのうち自分でもわからなくなって、本当だった気がしてくるのではないか。そんなことを思った。けれど、いつの間にか記憶の中でそこだけ色が違っていた。まるで警告を示すように、朱を帯びたまま積み重なっていく。いつまでも嘘は嘘のまま。
ㅤもう抜けられない……。
ㅤゆうべ誰かが呟いた言葉が頭の中にこだまする。身体がぶるりと震える。ぎゅっと目をつむり指で目尻を強く揉むと、まぶたの闇に朱色が混じった。
ㅤ目を開けて息を吸い込み、震える手で呼び鈴を押した。



『心のざわめき』

3/16/2025, 6:18:53 AM