かたいなか

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「去年の『今日』は、『雪』っつーお題だった」
今年は「追い風」だったな。某所在住物書きはアプリからの通知画面を見ながら、ぽつり。
「雨雪系のお題、このアプリ、結構多いもんな」

記憶に残っているだけ、かつ「雨」と「雪」の文字がガッツリ使われているものだけでも、
「書く習慣」における雨雪ネタのお題は、少なくとも7個以上。だいたい1ヶ月に1回は、雨雪系に遭遇している計算となる。
それが、ひとつ減ったらしい。

代わりに増えたのが風系のネタだ。
これで4個目であった。
「まぁ、深刻なネタ枯渇は起こしてねぇし」
書けるっちゃ、書けるさ。物書きは呟いた。

――――――

「風に乗って」、「風に身をまかせ」、「秋風」、
そして、今回の「追い風」。
風のお題の4個に1個が、順風、すなわち自分の進む方向に吹く風についてのお題なもので、
つい、順風に逆らいたくなってしまう物書きです。
「追い風味」のおはなしなんて、どうでしょう。

1週間のお正月が過ぎた、都内某所です。
某稲荷神社敷地内の一軒家に、人に化ける妙技を持つ化け狐の末裔が、家族で仲良く暮らしておりまして、
そのうち末っ子の子狐は、善き化け狐、偉大な御狐となるべく、絶賛修行中。
稲荷のご利益ゆたかなお餅を作って売って、少しずつ、社会と人間を、勉強しておったのでした。

その日のコンコン子狐は、同い年で同じ化け狐のミーちゃんから、実家のスーパーで売れ残った大量の七草セットを七割引きで大量回収してきまして、
意気揚々と、家の台所に戻ってきたのでした。
「おやさい、おやさい。いっぱいだ!」
コンコン子狐のお小遣いは、一時的にスッカラカンになりましたが、ここから一気に増えるのです。

シーズン外で値下げされた七草セットで、おいしいおいしい、惣菜お餅セットを作りましょう。
仕入れてきた七草セットを追い風に、お小遣いをたっぷり増やすのです。

「よし!ななくさおもち、つくる!」

まずコンコン子狐、大量の七草セットのパックを、
3分の1と、3分の2の量に分けて、
後者の方、多く分けた方の草を細かく切った後、
ドザザザッ!それらすべてを大きな鍋に、全部ぜんぶ、入れてしまいました。
七草を柔らかく、ほっこり、煮込むのです。
カブの歯ごたえは少ーしだけ残しつつ、お餅の具として成立するように、じっくり、煮込むのです。

「でも、おやさいだけじゃ、おもち、おいしくないんだ。おニクもどっさり、入れるんだ」

次にコンコン子狐は、別件で朝からコトコト煮込んでいた豚バラブロックのお鍋のフタを取りまして、
深く、大きく、うなずきました。
湯気をもうもうと上げる鍋の中にあるのは、醤油とハチミツと、追い風味にソースとメープルシュガーを少し足したもので煮込まれた豚バラ。
2時間3時間煮込まれて、それはよくよく煮汁を吸って、箸を刺せばすぐに崩れました。

「おいしそう。おいしそう」
食いしん坊なコンコン子狐、ぶっちゃけお肉単品にガブチョ、かじりつきたくて仕方ありません。
「だめ、ダメ。これは、おもちに入れるんだ」
食欲の酷い風に逆らいながら、コンコン子狐、
良い具合に煮込まれた七草の水気ならぬお湯気を切って、美しい飴色の煮汁に使った豚バラブロックのお鍋に、ドザザザッ!ブチ込みます。

そこから、もう少し煮込みまして、お餅の具材として丁度良いように味と食感を整えたら、
ぺたぺた、ぱたぱた。ぺたぺた、ぱたぱた。
甘じょっぱく完成した七草と豚バラの具を、お餅の中に次々、次々。仕込んでゆきました。

仕上げのお題回収。
出来上がった惣菜お餅に、豚バラと七草のエキスがしみ出した飴色煮汁をうすく塗って、追い風味。
コンコン子狐は完成したお餅をサッとあぶって、香ばしい「焼き」の風味を追加したのでした。
「できた、できた!おもち、できた!」

あとは、大量に仕入れてきた七草セットのうちの残り3分の1で、フレッシュなサラダを作りまして、
お餅と一緒に小分けにして、パッキング。
「なんか、サラダ、うーん……」
緑と白ばっかりで、七草サラダに「いろどり」が無いのを、数秒だけ悩みましたが、
まぁ、まぁ。そのへんは、購入者の美的センスに、なんとかしてもらいましょう。

「よーし!しゅっぱつ!」
できたての七草惣菜お餅を、押し車式のキャリーケースにザッカザッカ詰め込んで、
コンコン子狐、まるで車内販売の店員さんみたいに、餅売りの主戦場へ向かいます。
子狐の餅売り巡回を条件付きで許してくれる職場が、ひとつ、あるのです。

「でも、そのまえに、
おとくいさんのとこ、いかなきゃ!」
コロコロコロ、ガラガラガラ。
コンコン子狐、まず一昨年からの一番のお得意様に、最初の一個を届けてから、
意気揚々と、尻尾を振って、餅売り巡回場所へ向かったとさ。 おしまい、おしまい……?

1/8/2025, 4:27:33 AM