ジャングルジムの攻略本を書いた。どこから足をかければよいか。効率よく登る方法。やってはいけない注意事項。全編270ページ。まず100版刷った。とてもよく書けたので、書店に置いてもらおうと直訴したが、断られた。出版社に持ち込んだら門前払いされた。仕方なくメルカリで売った。2300円。売れなかった。僕はもう、アヒルボートの攻略本の執筆に取りかかっていたから、販促運動もこれまで、という感じだった。
ある日曜日、僕は公園に向かった。手に一冊の処女作を抱えて。黄昏どきの公園は幼児と父親が一組いるだけで静かだった。僕は攻略本をベンチに預けて、一直線にジャングルジムに向かった。ジャングルジムは青色で五層構造の小型タイプだった。このタイプについてはたしか第二章に記したはず。記憶を確かめて、定石通りの一歩目を骨組にかける。瞬間、手と足に過不足なくエネルギーを供給し、フルスピードで頂上へ。10秒、いや5秒とかからなかったかもしれない。満足して一番上から幼児の方に目をやると、彼らはずっと砂場で砂いじりに勤しんでいた。砂場にいれば砂いじりに没頭する。当然のことだ。僕はジャングルジムから下りてベンチに置いた攻略本を回収して家路を急いだ。帰り際幼児にプレゼント、と言って攻略本を手渡すと子供は受け取ろうとしたが父親がそれを阻んだ。僕は一礼して攻略本を丸めて、公園の入り口の自動販売機のゴミ箱のなかに放った。それで公園を後にした。家に帰ったら残りの99冊をどうするか考えなくてはいけない。
9/24/2023, 8:41:11 AM