千歳緑

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何もいらない



 逢いたい人に逢えたら
 本当に何もいらない

 

 今の僕には色んなモノがある。
 親や家族。
 五体満足な身体。
 飢えや暴力で突然消えたりしない未来。
 心を閉ざして接しないで良い友人。

 これらは、前世の僕にはなかったモノだ。



 今の僕を、前世の僕が見たら何と言うだろう。
 羨ましい? 妬ましい? 殺してしまいたい?
 それだけ、僕は何にもなくて。
 寂しくて惨めで。
 来世は絶対幸せに生まれてやると、歯を食いしばって生きた。
 あの、長くはない一生。



 きっと僕は、誰が見たって幸せで。
 昔の自分が殺してしまいたくなるほど満たされていて。
 この平穏を投げ出したりしては。
 馬鹿だと、思うんだ。



 …ねぇ、前世の僕。
 それでも、僕は。

 逢いたい。
 生きている時は信用できなくて。
 最期まで信じることができなくて。
 それでも、僕の死ぬ間際。
 大粒の涙を流してくれた、君に。

 残してしまった君。
 一緒に笑い合うことができなかった君に。
 今世で、君が。
 生きているのなら。



 生きていて良かった、って。
 一言伝えられたら。



 それだけで僕は、何もいらないんだ。



 

4/20/2026, 2:18:44 PM