九至 さら

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『羅針盤』

私は海になりたい。
これが世間での言葉でいうならば、自殺なのかもしれない。部屋のベッドに寝っ転がりながらそう考えた。
右手に持ってたバケツが横に倒れて海水が流れ出す。
透明な海水が部屋の中に広がっていく。
ずっと海水は青色だと思っていた。
海水と淡水の境目を探しに行った小4の夏。
部屋の壁全面を青で塗りつぶした中1。
そして、部屋を海水で埋めつくそうとする高1の私。
成長するのはこういうものなのだろうか。
小3の頃には確かにあった、両手を塞ぐものが、確かな絶対が。
こんなに捻くれた思考をするようになったのも、それがきっかけだろう。
私には足りないものが多すぎた。周りの人が当たり前に持ってるものを、持ってなかったのではない。手に余るほどあったものを根こそぎ、腕ごと奪われてしまったようなものなのだ。愛情を際限なく分け与えてくれる親、言葉の通じる同級生、綺麗事以外の言葉をかけてくれる先生。嫌味を知らない叔母。誰か一人でもひてくれればこうなることもなかったはずだ。
そんな私を支えてくれたのは、海だった。
ろくでなしの私を包み込むような優しさ、そして、決して底を見せてはくれない不気味さ。
この二面性を持ち合わせた海に酷く惹かれてしまう。
あの日以降、さらに海への興味が湧いた。
不順な動機だったのかもしれないが、私には海が全てだった。
海の1部になれる方法をずっと探している。
┈┈┈┈┈大好きなものに大好きな人が奪われた。
絶望した。私が好きじゃなければ、きっと海には来ていない。私が殺した。私が両親を海に沈めたのだ。
ライフセーバーが駆けつけた時には、もう遅かった。私が犯人ですと、私のせいなんですと、その言葉が喉に引っかかったまま、私は震えて泣いていた。

空を欺くことは出来ないし、空だって私たちを欺けない。

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈途中

1/22/2025, 5:46:02 AM