真夏のギラギラと照りつく太陽。
じっとりと肌を滴る汗。
湿度の高い熱風が辺りに吹き荒れ
大勢の観客たちが犇めきあっている。
観客たちの視線が集う
色鮮やかなアスファルトのグラウンドには
柔軟体操やウォーミングアップで身体を解す
選手たちの姿が点在している。
カラフルなユニフォームの彩りが
手を振り返す選手たちのパフォーマンスが
より一層見る人たちの期待を熱くさせた。
おもむろにスターティングブロックに近づく。
両足を掛け、クラウチングスタートの体勢に入った。
「Go to the start ……(スタート位置に着いて)
Ready……(よーい)」
これから繋ぐバトンには
選手たちが繋いできた思いや願いが託されている。
今までの過酷な練習のツラさを
惜しくもメダルを逃した屈辱を晴らすために
今ここに立っている。
思い出せ……思い出せ……思い出せっ‼
全身にギリギリと力が漲る。
太股がバキバキと音を立てているかのように
うねりを上げた。
〝パンッ‼〟
審判の合図でスタートの音が鳴った。
「うあ──っ!」
観客たちの声援がグラウンド中に木霊する。
胸がざわめく。
耳に風が吹き荒れる。
真夏の日差しが目に入り
真夏の真っ白な眩しさに目が眩んだ。
じっとりとした汗が目に浸みる。
考えるな!
前へ!
もっと足を速くっ‼
肌で向かい風を振り切りながら
先頭を走るランナーの背を捉えた。
「うあ──っ‼」
観客たちの声援がより一層凄まじさを増す。
全身にメキメキと力が漲ってきた。
追い付ける!
いや、追い抜くっ!
抜いて念願の金メダルを奪うんだっ‼
全身にドクドクと熱い血が巡る。
胸の鼓動がバクバクと脈打つ。
耳元で心臓が呻きを上げてるようだ。
「うぁーっ!
絶対に、追い抜くっ‼」
俺の叫び声に
先頭を走るランナーが振り向いた。
握り締めたバトンにミシミシと力が漲る。
走れ!もっと速くっ!
足先の隅々まで力を込めて
一気に前に蹴り出すんだっ‼
もっと!もっと足を速く!
上半身を前にっ‼
向かい風の気流に乗って風を捉えた。
先頭ランナーを追い抜き
ゴールテープを切るイメージが
残像として脳裏に過る。
「見えた!勝負っ‼」
一歩また一歩と足を前へ前へと押し進め
気付けば先頭ランナーと肩を並べていた。
「な、何だって!
どこにそんな力がっ⁉」
先頭ランナーの驚いた顔。
息も絶え絶えに
精神だけで走り抜いているようだった。
「わ──っ!!!」
観客たちは一斉に立ち上がり
歓喜の声が至る所から湧き起こる。
アリーナが
一体となって押し寄せて来るようだった。
足に意識を集中しろ!
俺ならやれるっ!
いや、やるんだっ!!!
観客たちの声援を糧に
ジリジリと前へまた前へと足を走らせる。
「うぁー!」
鼓動が悲鳴を上げる。
全身の力が抜け落ちそうになるのを
必死に堪えて耐え忍ぶ。
今めげたら抜かれる!
考えるな、考えるなっ!
全身の筋力を足全体に行き渡らせ
呼吸を一点に集中させた。
前だけを見つめろ!
太股に足先に意識を集中させ
全身をバネにして前へ飛べっ‼
足先に一気に力を込め
更に前へと足を振り上げた。
気を緩めるな!
今だ!この瞬間!
目の前だけに意識を持てっ!!!
「ぁあーっ‼」
声にならない声を上げ
一歩また一歩と
灼熱のアスファルトを我武者羅に駈け抜けた。
「わ──っ!!!!」
灼熱の太陽の下。
汗も滴る真夏のグラウンドで
アリーナ全体がどよめいた。
《抜いた~!抜きました!
なんと言うことでしょう!
優勝候補間違いなしと言われていた選手が
今先ほど抜かれました~!》
俺の頭の中で場内アナウンスが流れゆく。
ここで気を抜いたら一貫の終わり。
相手の選手はまだ諦めてはいない。
ゴールはもう目前。
ここでくたばってたまるかぁーっ!
「ぉわ──っ!!!!」
俺は声にならない呻き声を上げ
残されていた全身の力を振り絞る。
足全体に力を漲らせ
一歩また一歩と更なる前へと駆け抜けた。
こんなものか⁉俺の全力は!
まだだ!
まだ勝負は終わってないっ!
「ぅわ──っ!!!!」
俺は更なる呻き声を上げ
残されてた全身の力を振り絞った。
胸にゴールテープが触れる。
テープを引き裂く勢いで
更なる上を行く全力でゴールを駆け抜けた。
これは……夢なのだろうか……?
夢にまで見た優勝の文字。
言葉には言い表せないほどの
感動や感激が押し寄せ
脱力と共にその場に崩れ落ちた。
涙が溢れ出て言葉にならない。
「ぅ……うぅ……」
友達が駆け寄り
背中に掛けてくれた母校の国旗を身に纏う。
おもむろに一歩また一歩とグラウンドを歩んだ。
涙で霞んだ真夏の晴天を見上げ
天高く握り拳を突き上げながら。
ー熱い鼓動ー
7/31/2025, 9:30:53 AM