・続き
「愛してる」――そう口にしたとき、彼女は一瞬だけ目を伏せた。
その仕草の意味を、俺は知っていた。
軽い気持ちで言ったわけじゃない。
けれど、本気で伝える勇気もなかった。
彼女は静かに笑って言った。
「……私たちには似合わない言葉だね」
胸の奥に、鋭い棘が刺さったようだった。
わかっていた。最初から。
俺たちはただ、互いの隙間を埋めていただけだってことも。
けれど、ほんの少しだけ――それ以上を願ってしまった。
冷めたコーヒーを見下ろしながら、言葉を飲み込む。
彼女の横顔は、どこまでも穏やかで、そして遠かった。
――もう、都合よく連絡なんてできないだろう。
わかっていても、携帯を開けば、つい彼女の名前に指が伸びる。
押せないまま画面を閉じる、その繰り返しが続いた。
「愛してる」が似合わない二人。
それでも心のどこかで、まだその言葉を彼女に投げかけたい自分がいる。
言えなかった言葉は、夜の静けさに溶けていった。
8/20/2025, 10:41:37 AM