氷室凛

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 ──あれは、いつのことだったろう。
 小学生、いや、幼稚園?
 
「いちばん最初にジャングルのてっぺんに着いた人が王さま!」

 誰かがそう言って、俺たちは必死になってジャングルジムを登った。
 しがみつき、よじ登り、ときにはライバルの腕を蹴飛ばして──そうして俺は王さまになった。
 あとから来る友人たちが羨ましそうにこちらを見上げているのが、ひどく心地よかったことを覚えている。

 10代にもなっていない頃の出来事。
 それが俺の人生の頂点だった。

「ってて……。ここ、どこだ?」

 夢から醒めた俺はあたりを見渡した。

 ジャングルジムのてっぺん。そこから下る一方だった俺は、ついに大量の薬物を摂取しての自殺をはかった。
 はかった──のだが。現にこうして意識があるし、周りの景色は見慣れた俺の部屋ではない。
 赤黒い、洞窟の中みたいな陰気な風景だ。

「地獄、か……?」

 恐る恐る一歩を踏み出した途端、

「ピイィィィイ!!!!」

 何かが俺の横を通り過ぎた。無様にしりもちを着いた俺の頭上をそいつは旋回する。
 鳥、鳥だ。でもただの鳥じゃない。燃え盛る身体に羽の代わりに舞う火の粉。火の鳥だ。

「あ〜〜待てって! ──おや、本当にお客さんだ」

 次いで気の抜けた声とともにひとりの青年が走ってくる。そいつは俺と目が合うと驚いた顔をしてから足を止めた。

「やあ、初めまして。僕は魔法雑貨店の店長だ。さて、君は?」

 こちらに手を差し伸べながら笑うそいつの目は──悪魔みたいに怪しく煌めいていた。




20240923.NO.60.「ジャングルジム」

魔法雑貨店店長新シリーズ
歌姫編のラストは「カレンダー」と「声が聞こえる」に時間あるとき書きます!

9/24/2024, 10:02:56 AM