望月

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《明日、もし晴れたら》

 『結婚式を挙げるんだ』
 兄からの便りにはそう在って、挙式の日付は明日だった。
 唐突で、驚いた余り目を何度擦っても同じ文字が並んでいた。
 恋人がいるという素振りすらなかったというのに。
「結婚かぁ……相手、どんな方なんだろう」
 弟として知っておきたい。
 この先、慕うべき存在となるのだから。
「兄さんも話してくれたらいいのに」
 その時ニュースで、明日の天気予報は大雨です、と聞こえた。
「雨……雨ね」
 明日は洗濯物ができないな、とか。
 出掛ける時は傘を持っていかないと、とか。
「明日、もし晴れたら——それでも雨が降っていたらきっと、兄さんは結婚式を挙げているんだろうなぁ」
 そう呟いて弟は、自慢の黄金色の尻尾でクッションを叩いた。
 叩いてから、化けの皮が剥がれていることに気付いた弟は尻尾を隠す。
 幸い今は一人だが、外でやってしまわなくてよかった。
「兄さん、おめでとう」
 零した祝福の言葉は、遠い山里にいる兄にも届いただろうか。
 きっと、狐の兄弟の絆が伝えてくれるだろう。

8/2/2024, 4:56:44 AM