花咲いて
咲き出す花を楽しみにするお話が出揃っているようだ。さて、私は違う方向の花を考えてみようか。
10年以上前、夜明けの青い薄明るさのなか、山あいを車で通り抜ける機会があった。晩夏にさしかかる時期、明け方だと霧が紗幕のように遠景を隠す。
道路以外の見える範囲には、どこまでも花が咲いている。すべて同じ形の白い花。隙間もなく、色違いなどただの一輪もない。霧の隠しが被っている青の薄明に、広大過ぎる花の原。すでにしばらく花のなかを走っているのに、花の原が尽きるところが現れない。異界につながっているかのような、幻のような、白い花の世界に、突然鮮やかな黄色が現れた。それは大きくはない小屋のように見えた。人の気配は無い。よく見ると、小屋らしきものにはタイヤが付いている……さて、現実に帰って来ようか。
黄色い小屋のような「車輛」は、収穫のための農機「ハーベスター」だ。農機としては山のようにでかい。白い花の原は蕎麦畑である。上記の風景は実際に私が通りがかりに見たそのままだ。昔は田んぼだったところを、畦を壊して蕎麦畑にしたので、ハーベスターみたいなでっかい農機でないと、収穫が間に合わない。
蕎麦を食べて「美味ーい!」と喜ぶとき、蕎麦の花の風景も一緒に…などと思うこともないではないが、わが胃袋は、腹ペコ時には食べものに全集中だ。花を想うにはお腹を空かしていてはダメなのだろう。
平和という花も、餓えたこころを癒してやっと、見たり咲かせたりできるのだろう。
花よ咲け。でもその前に「ごはん食べ」なさい。「食べない」奴は自分を生かしてくれるものに触れる機会に乏しいから、りっぱな「ハーベスター」になれないわよ。そんなのお母さん許しませんよ! 「いただきます」と「ごちそうさまでした」って、ちゃんと言うのよ!
7/24/2024, 8:07:07 AM