無音

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【71,お題:力を込めて】

目を閉じて息を止めて

そして、もう二度と離れないよう、ぎゅっと力を込めて手を握る

もう絶対、あなたを1人にしない
二度とこの手を離さないから


崩れかけた城壁の中、2人の姉妹が身を寄せあっていた
互いにぴったりとくっついて、もう離れることのないように

「ねえ、...起きてる?」

掠れた声を上げたのは、姉の方だ
妹はなにも言わず、静かに目を閉じている

「あなたにずっと会いたかった」

それは酷く悲しい囁きだった
妹の耳に届いているかもわからないが、姉は続ける

「私、あなたに何もして上げれてない
 お姉ちゃんらしいこと、何も出来てないのよ...」

...

「...おねえちゃんは...」

「!!」

「ずっと、私のお姉ちゃんだったよ...」

「一度も忘れてない、私に...タンポポの花冠、編んでくれたこと」

ふーっと長く息を吐き出し、弱々しく笑って見せる
最後に見せる顔にしては、驚くほど幸せそうな笑みだった

「今までのことはね、...全部どうでも良いの
 こうして会えたから、もう全部どうでも良い」

曇り空が晴れて、光が差す
瓦礫と鉄の匂いが散乱する中、2人の周りだけが
まるでそこだけが、特別神に愛されたかのように美しく照らされた

「お姉ちゃん」

「なに?」

「一生のお願い、ここで使うね」

「何でも言って」

「手、離さないでね」

もう絶対、離れ離れにならないでね

「...ッ、うん!あなたも絶対離しちゃダメだからね」

「わかってるもん」


二度と別れることのないように、強く強く力を込めてその手を握る

大丈夫、2人なら怖くないよ 私たちは2人揃ったらサイキョーだもんね

これからはずっと一緒に居よう どこにも行かない、あなたとずっとずーっと一緒に居る


瓦礫の中、寄り添うように眠りについた
彼女達は、世界で一番幸せだった

10/7/2023, 1:56:49 PM