『もしあの時、あの道を選んでいれば』
なんて"たられば"を、生きていれば誰しも一度くらいは考えた事があるだろう。
一度たりとて迷うことなく順風満帆な生涯だった。
そんな運の良い ──── あるいは単純で楽観的な思考を持つ ──── 者はほんの一握り。大抵の人間は後悔と未練を何処かに残した、良くも悪くもない平穏に満足している者が大半だろう、というのが俺の見解だ。
あながち間違いでもないはずだ。
現に、確かな今の中でも、この"たられば"が過ぎる事があるのだから。
高望みしすぎ?
いいや、いいや。これが高望みなものか。
俺は知っている。今いるこの場所こそが最善だったと。
最善ではあったが最高ではなかった。
差し伸べられた手を取る事は出来なかった。
何もかも捨てて、最も欲しいモノだけに手を伸ばすことは出来なかった。何も捨てる事が出来なかった結果は、一番大切なモノを失い、あるべきものがあるべきへ収まった予定調和の日々。
息苦しくてたまらない、物語めいた最善の話。
後悔ではない。
未練でもない。
これは、
叶うのならば選びたかった願いが、零れる音。
嗚呼。鳥が飛ぶ、鳥が飛ぶ。
遙かに高き蒼穹を見上げ、広大な自由を飛び回る鳥が眩しいと目を細め、届くことのない指を伸ばし、後悔でも未練でもない願いを独り言ちる。
あの手を取った未来を見てみたくもあったのだと。
【題:岐路】
6/9/2024, 12:59:41 AM