双子の弟が死に、私は「それ」をつくりだした。
朽ちかけた死体を繋ぎあわせ、微量な電流を少しずつ心臓に流せば神経が動き出す。はじめは弱った魚が跳ねるようだったのが、少しずつ人間らしい動きを取り戻していった。私と瓜二つの顔で眠るそれを眺め、私は感慨深い気持ちに落ち着いていた。
これが成功すれば、死人に口なしなどとはもう言わせない。近頃めっきり増えた、凶悪な犯罪やおびただしい数奇な事件にも牽制をかけることができるかもしれない。
狂人といわれたって構わない。誰かのためになるならば、研究者冥利に尽きるというものだ。
そのためになら私は、実の弟の死体だって利用できる。
やがて瞼をあけたそれは、特別驚きもしていないようだった。腐敗がはじまっているが、私のしたことをすべて見透かしているかのような瞳まで、生前のままだ。
「どうして、僕を死なせてくれなかった?」
流暢に喋りだしたそれに、私は内心おののいた。
が、感情なくつとめてこたえる。
「人類への貢献だ。私の実験が誰かのためになるならば─」
「違うね、兄さん。自分でわからない?なら僕がふたつほど説明してあげようか。」
途端に言葉を遮り、それは今にも崩れ落ちそうな身体を起こした。腐った体液が私の頬に飛び散る。
恐ろしい予感がした。
「ひとつは、僕を激しく憎んでいるから。幼い頃から、僕と兄さんにたいする周囲の扱いの差は歴然としていたものね。四六時中研究に明け暮れる兄さんより、婚約者がいて、普通に優等生の僕の方が優れてみえたみたい。父さんや母さんからの愛を独占した僕を、殺したいほど憎んでいたんだろう。だから墓を掘り起こしてまでして、僕の尊厳を踏みにじったんだ。」
「──もうひとつは、何だ。」
全身に冷たいマグマが流れている。爆発することもできず、私の身体を蝕みつづけた、愚かな劣情。
血に濡れたその唇が、赤い三日月に歪んだ。
「そんな禁忌を犯してしまうほど、僕を愛しているからさ。僕を見るその目をみればわかるよ。」
ずるりと顔が溶けてゆく。私と同じその顔が。
皮膚が流れ落ち、瞳が濁る。それはもう死体に戻ろうとしていた。
暗がりの研究室に、悪魔の声を永遠にこだまさせて。
「僕のためだとお言いよ。自分のためだと。」
7/27/2023, 9:59:23 AM