『何もいらない』
誕生日に何が欲しいかと聞くと、娘は必ずこう答えた。
「何もいらない」
一見、無愛想な返答にも思えるが、意外にもその声色は軽やかで、表情はニコニコとした笑顔に満ちている。
初めての事は、4歳の頃の事だった。
それから誕生日を迎える度に、何が欲しいかと尋ね、娘は毎年必ず「何もいらない」と答えた。
別に構わない事ではある。
だが、疑問も、芽生えてくる。
まだ小学生の、それも高学年でもない子供が、誕生日プレゼントを欲しがらないというのは、少し奇妙な言動のようにも思えたからだ。
普通、もっと色々なものを欲しがらないだろうか?
まして年頃の女の子が、誕生日に何もいらない、というのは何か裏があるのではないか?
しかし、そんな疑問を押し付けても、意味の無いことだ。
娘が何もいらない、と言うのであれば、それが娘の意思であり、性格なのだろう。
ならばその意向を尊重するのも、親の務めに違いない。
そうして12歳の誕生日を迎えた時。
娘は何も欲しがらないだろうと思い、誕生日は盛大に祝った上で、もう何が欲しいかと聞くことはしなかった。
翌朝。
娘は失踪していた。
4/20/2026, 11:11:56 AM