蝉助

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「頼むよ満月〜! お前と俺の仲だろうが〜!」
「中学以来初めて連絡を寄越したと思ったらそれか!」
真利は嫌がる満月にへばりついていた。
いかんせん力だけは強いもので、満月がどれだけ容赦なく突き放そうとしても剥がれない。
諦めた彼はため息を吐いた。
「……まったく、説得くらいは聞いてやるから、もう一度説明し直せ。あんまり分かってない。」
「みつき〜!」
「とにかく離れろ。」
2人は机を挟んで向き合って座る。
満月は再び10年来の再会を果たした真利の姿に目をやった。
ヘランヘランな愛想がよく人懐っこい笑顔。
煙立つ爆発を連想させる癖毛の髪。
この辺りは学生時代から変わらず真利のアイデンティティを確立させるのに手伝っているが、それ以外は随分と変わってしまった。
眩しいばかりに光り物のアクセサリーつけてるし。
髪の色レインボーだし。
服装だってすごい、まるで占い師のような紫色のロングローブで全身を覆っている。
とにかく派手だ。
恐ろしくも感じる。
しかしそれら全ての要素に満月はなんとなくだが納得できた。
「とりあえず、俺が同級生の中で1番の成功者なのは周知の事実じゃん?」
至極真顔で同意を求める。
満月は首を縦にも横にも振らなかった。
無回答を貫いたのは、それなりに的を得ているからだ。
高城真利。
その名前は有名だ。
数年前、東京で起きた巨大地震を預言した男として日本中で注目を浴びた。
それ以来嵐のように押し寄せるメディアメディア、奇異やら畏怖やらを纏った人々の視線視線、世界は一時期彼を中心に回った。
しかしそれももう過去の出来事である。
大預言から数年が経った今、彼の起こした奇跡は色褪せて燃え尽きようとしている。
「最近じゃ古代魚みたいな扱いをされるんだよ? たまったもんじゃないよ、まだ全盛期を生きているのに!」
「最近はメディアでの露出もぱったりなくなったもんな。世間がお前に飽きたんだろ。」
「そう、飽きられてる!だから俺はもう一度奇跡を起こすしかないんだ!」
そう叫んで勢いよく立ち上がる。
目は指に嵌められた宝石よりも爛々と輝いて、その眩しさのあまり満月は顔をしかめた。
「ならさっさとその奇跡やらを起こしてください、大預言者様。」
「いや無理でしょ。俺そんなことできないし。」
満月の突き放した発言へ覆いかぶせるようにして吐き捨てる。
先程の大袈裟までに強調した声色から一変し冷たい。
そうだ。
本来、真利に預言の才能はない。
メディアの言う優れた大預言者などではないのだ。
「運が良かっただけだよねぇ。この世にはもう幾千幾億の偽物預言者がいて、その一部である俺がたまたま正解を引き当てただけ。それを世間がよっこらせっこら運んでくれて、こうして立派な事務所を構えるだけの神様もどきになっちゃった訳だから。」
「ああ、偽物って自覚はあるんだ。」
「そりゃそうだよ。未来なんて見えたことも感じたこともない。」
酷く落ち着いて、冷淡な声色で続ける。
預言者という夢見がちな身分でありながらこうも現実的でリアリストな物言いが、彼がどれだけ人々を見下しているかを強調していた。
しかしまたすくっと立ち上がって今度は満月の方へ顔を突きつけると、子どものような無邪気さをまとって懇願するように手を合わせた。
「だから、頼むよ! 今こそお前の力の見せ所だと思うんだ!」
「……。」
「本物の預言者なんて、25年生きていてお前しか見たことないんだ!」
「」

10/2/2024, 10:34:38 AM