ゆっこが突然いなくなった。
それは隕石が落ちるとニュースで報じられてから、十日後のことだった。
俺がいつものようにゆっこの家に行くと、ゆっこのお母さんは「朝から姿が見えなくて」と困り顔で言った。その時は俺も深くは気にしてなかった。誰かと遊びに行ったのだろう。そんな風にしか思っていなかった。
けれどもゆっこはその翌日も、翌々日も帰ってこなかった。
捜索願いも出されたらしいが、世の中はそれどころじゃない雰囲気だ。朝から晩まで隕石、隕石、また隕石の話。いつどこに落ちるのか。世界はどうなってしまうのか。そんなニュースばかりが続いていた。
暇を持て余した俺は、誰もいない小学校に行ってみたりもした。授業が取りやめになった学校は、しんと静まり返って不気味だった。みんなは家にいるのか。それともゆっこみたいに行方不明なのか。
俺はグラウンドを歩きながら考える。ゆっこはどこに行ったのだろう。真面目で明るいゆっこが、こんな風に突然いなくなるなんて考えもしなかった。俺がいなくなるのとは話が違う。
遠い親戚の家に行った? いや、思いつく限りのところはゆっこのお母さんが連絡してる。
どこかを目指して途中で力尽きた? でもゆっこがそんな無計画なことをするだろうか?
「あっ」
そこで一つだけ、俺の中に馬鹿みたいな可能性がよぎる。
「あいつ、隕石止めに行った?」
まさかと笑いたいのに笑えないのは、ゆっこの強い正義感を知ってるからだ。
誰だって一度は想像するだろう? 世界を救う子どもの話。選ばれた子どもたちが、世界を救うために奮闘する話。
ゆっこなら選ばれる。選ばれてもおかしくない。そう思うと、なんだか俺も力が湧いてくるような、そんな気がしてきた。
「よし」
足を止めた俺は空を見上げた。なら俺もここでぶつくさ言っている場合ではない。
いつか世界を救ったゆっこが戻ってくるように。そう祈りながら、いつ追加戦士に選ばれてもいいよう準備をしなくては。
5/19/2023, 11:27:53 AM