John Doe(短編小説)

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大芸術家


僕は美術の授業が本当に嫌いだった。
美術の先生はおばさん。いかにも画家って感じの人じゃなくて、普通に近所に住んでいそうな何考えてるかよく分からない感じのおばさん。でも、先生、僕の作品を一つだって評価してくれないんだ。美術部のヤツらばかり贔屓しやがる。

別に芸術が嫌いなわけじゃないぜ。それなりに好きな画家もいたし、気に入った絵や彫刻もあった。だけどさ、美術の先生は『お題』ばかりだして技法だの何だのと言って作品を評価するんだ。描きたくないもの、作りたくないものばかりやらせるんだから、そりゃあ嫌にもなるだろ。

でさ、ある時先生が『お題は無し』と決めて、自由な絵を描いてくるよう課題を出したんだ。これだよ、これ。やっぱ芸術は自由じゃなきゃだよな。僕はかなりやる気になったよ。みんなきっと凄い絵を描いてくるに違いない。特に美術部の連中、アイツらそうとうやる気になってたな。

提出の期限は一週間後だ。それだけありゃ十分。僕はもうどんな絵を描くか決めていたんだ。
描くのは、桜の絵。近所に、それはもう見事な桜の木があったんだよ。僕は画材を持って、画用紙にその桜を迫力ある絵に仕上げていった。丸一日かけてその絵は完成した。

一週間後、絵を先生に見せるときがやってきた。美術部のヤツらもかなり凄い絵を描いてきてたけど、僕は怯まなかった。それくらい自信があったのさ。
僕は、先生に提出した。
“さあ、どうだい先生。この桜吹雪の雄大な絵は。僕がその気になりゃあこれくらいの絵を描けるんだ”
僕は心の中で勝ち誇ったように叫んだ。

「あの、なんと言うか…うん、そうね。正直に言うと気持ち悪い…かな。」

「は?」

「ごめんなさい。これは、何を…描いた絵なの? その、この蛆虫みたいなのが腐った、その…死体? みたいなのに群がっているのが気持ち悪くって」

「………」

「ちなみに、これのタイトルは?」

「…『桜吹雪』」

「え?」

「あっはははは! 桜吹雪のような腐乱死体に群がる蛆虫ですよこれは!! いやあそんなに気持ち悪かったかあ。そうですか、そうですか」

僕は目の前のババアから絵を奪い取るなり、ビリビリに引き裂いてやると床に叩きつけて踏みにじってやった。教室が静まりかえり、僕はババアを睨み付けるとズカズカと教室を出て行く。

「あれ、お前もサボり?」
廊下に男友達のジョンがいた。こいつはよく授業をサボる不良生徒だ。
「ああ、そんなところだな」
「じゃあさ、今から映画でも観に行かね?」
「そうだな。行こう。僕がおごってやるよ」
「マジ? お前今日やけに気前がいいじゃん! 愛してるぜぇ兄弟!!」

僕はジョンと肩を組むと学校を後にした。
「タバコ持ってるか?」
ジョンみたいな不良ならタバコくらい持っているだろう。
「あるけど、お前吸ったことないだろ」
「いいからよこせ」

「どうだい、うまいもんだろ?」
僕は肺に勢いよく煙を取り込んで、むせた。

9/12/2023, 1:34:24 AM