かたいなか

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「手を、繋いでほしい要望なのか、既に繋いでる状態を言ってるのか。どっちだろうな」
おそらく類語に、手を「握って」、「掴んで」等があると思われる。それらではなく、敢えて「繋いで」とする狙いはどこだろう。
某所在住物書きは頭をかき、天井を見上げた。

「『手錠で柱に』手を繋いで、とかなら、刑事ネタ行けるだろうけどな。どうだろうな」
ひとつ変わり種を閃くも、物語を書く前に却下。
「……そもそも『人間の手』である必要性は?」

――――――

最近最近の都内某所、某「本物の魔女が切り盛りしている」とウワサの喫茶店。
比較的静かな店内ではアンティークのオルゴールが、タタン、かたん、タタン、かたん。
優しく穏やかに、単調に、振動板をはじいている。
オルゴールに差し込む鍵によって曲が変わるのだ。

その「比較的」静かな店内を、とたたたた、とてててて!走り回って遊ぶ――あるいは逃げる、不思議な子狐と不思議なハムスターがある。
「まて、ネズミ、まてっ」
「ハムスターだってば!」

パタン、たたん、パタン、たたん。
店主の老淑女は伏せたカードをめくっている最中。
4枚がそれぞれ示す絵柄は、
子狐に追いかけ回されているネズミ、
手を繋いで洞窟に入る2人の子供、
互いが互いの背後を指さし合う表紙絵の本、
そしてケージに閉じ込められたキバナノアマナと、竜に噛みつかれている白トリカブト。

1枚目は「今まさに起きていること」。
魔女のカードは直近の出来事であればあるほど、ハッキリとしたイメージで映し出される。
「子狐に追いかけ回されているネズミ」はつまり、店主の目の前で発生している運動会そのもの。
異世界からやってきた言葉を話すハムスターが、稲荷神社に住まう子狐に、遊び相手としてロックオンされてしまったのだ。
詳細は前回投稿分参照だが、気にしない。

2枚目から4枚目は?

「どうだ、アンゴラ。結果は」
店主の手元を見ていたのは、たったひとり来店していた男性客。名前をルリビタキという。
「何か変化は。どうなんだ」
カードの意味を早く解説してほしいルリビタキは、店主にただ質問に質問を重ねている。

「どうしたも、こうしたも」
何も変わってないわよ。店主の老魔女は長い、小さなため息を吐いて、揃え直したカードを再度4枚。
「なんにも、変わってないわ」
並べて、ひっくり返して、結果も見ない。
今回も最初と同じ絵柄が、同じ順で並ぶばかり。
「このまま信頼を構築できなければ、『機構』に誘われて、手を繋いで一緒に行くでしょうし、
互いが互いに相手の価値観に触れて、相手の方が良いと思うでしょうし、
結果として、あなたは以下略。逮捕と執行」

2枚目と4枚目は未来の速報値。
条志が店主に予知を頼んだのだ。
「誰」の、「何」の予知を頼んだかはナイショ。
今後のお題次第である。

「誘われていく未来が変わらんなら、監視を付けるだけだ。カナリアに監視と評価を頼む」
「あなたはどうするの」
「俺よりカナリアの方が潜り込みやすい」
「そうかしら?私には、カナリアよりあなたの方が、懐きやすいと思うけれど」

ありえない。
ルリビタキは店主の言葉に首を振って、店を出る。
「監視より、信頼とか、人間関係とか、そっちの方を優先させるべきだと、私は思うけれどねぇ……」

これから先、どう「物語」が進んでいくやら。
店主は再度ため息を吐いて、カードを片付ける。
「ほら、そろそろ許しておやりなさい」
丁度ハムスターを追いかける子狐が足元を通過したところで、子狐の前足もとい、おててを確保。

お手手をつないで、あんよはブラーン。
コンコン子狐はじたじた、バタバタ。
しばらくハムスターが逃げていった先を見ていたものの、店主の老魔女からクッキーを貰って、
遊び気から食い気に、すぐシフトしたとさ。

3/21/2025, 9:57:07 AM