行かないで (10.25)
ダンッ
興奮した先生の足音に飛び起きる。足利義…わからない。眠気に負けた赤い字が見事に踊っている。修正テープをカチリと開けて、またすぅと意識を持っていかれそうになったその時。
「えへへ、おやすみなさーい♪」
きゃらきゃらと高い声。ぶうんという羽音も相まって反射的に手ではたき落としたその先には、透明な翅をきらきらとさせた妖精がいた。
「な、何するのよ!眠りなさいっ」
オニは外、と言わんばかりに金色の粉を投げつけてくる。しかし空いた左手でしっかりガードしたので効果なし。
「眠ったら授業なんて一瞬よ!願いを叶えてあげてるんじゃないの。離してっ」
これは夢かな、と思いながらジタバタする小人をつまみ上げる。思いっきりあっかんべーをする姿はなかなか愉快だし、このまま見ていたいのだが。
「君さ、僕の専属にならない?」
「…はあ?」
「夜全然寝れないんだよ。昼夜逆転ってやつ。薬とか、親が心配して飲めないし」
そう言うと急に黙り込んで、じいっと目を見てくる。
「猫飼ってない?犯罪に興味は?まさかロリコンの趣味ないでしょうね?」
「…全部ないから」
「よし合格」
「そんで、わしは今まで元気に生きとるんじゃ」
今年で100になるじいちゃんの、最近の口ぐせである。
10/25/2023, 8:44:43 AM