その背中には見覚えがあった。
仕事以外の場所で会えるのは珍しいから、俺は迷わず彼女に声をかけた。
「あれ、こんにちは!」
色素が薄い彼女は振り返りざま笑顔で返答してくれる。
「こんにちは!」
「元気? 怪我してない?」
彼女と出会う時はだいたい彼女が怪我をしている。本当によく怪我をする子だから、心配になってしまう。色素が薄いからか、簡単に消えちゃいそうな儚さがあるから余計だ。
「大丈夫です、元気です!」
両手で小さくガッツポーズをする彼女はとても可愛らしい。
俺は自然と口角が上がった。
「そっか、良かった。あ……」
彼女とは互いにクリームソーダが好きで、一緒に買いに行ったり、プレゼントしたりする仲だ。最近、新しくクリームソーダを出す店をチェックしていたことを思い出す。
「あのさ、新しくクリームソーダが発売されたみたいなんだけれど、一緒に買いに行かない?」
一瞬、目を見開いたけれど、直ぐに柔らかい笑みに変わる。
「え、良いんですか?」
「もちろん、今からでも良い?」
ほんの少しだけ強引な誘いをした。
そう、俺は彼女と一緒にいたいんだ。
「わーい、楽しみー!!」
「じゃあ……どうしよう。俺バイクだけと……後ろ、乗る?」
「乗るー!!」
俺の思惑なんて気がつかずに、両手を上げて喜ぶ彼女を見ていると、やっぱり胸が暖かくなる。彼女の車に乗った方が楽と言えば楽だけど、運転させちゃうし、道案内をしないといけなくなる。
例え密着度が高くなるけど、俺のバイクの方が良いだろう。うん。
そんなことを考えている間に、彼女とは近くの駐車場で待ち合わせをする。
あ、しまった。これだと駐車場代を出させちゃうな。……クリームソーダは俺が奢ろう。
俺は待ち合わせの駐車場の入口で彼女を待っていると、車を停めた彼女が走ってくる。
「じゃ、行こうか!」
「はい!!」
彼女は躊躇うことなく俺のバイクの後ろに乗ると腰に掴まった。
これは……しまったな。色々集中しないと怪我させちゃいそうだ。
近くにいることで彼女の柔らかさを体験してしまって焦りを覚えたが、ふたりきりの時間なんて、早々ないんだ。
だからこそ、この時間を大事にしたい。
彼女の体温を背中に感じると心臓が煩くなる。平然を装いながら、運転に集中した。
もっと、君と一緒にいたい。
そんなふうに思ってしまった。
おわり
一二七、大事にしたい
9/20/2024, 11:37:37 AM