あの人は、雪が好きだと言った。
降り積もっていくさまや、降り止んで日が出た時にその光を反射して輝くさまが、美しくて好きなのだ、と。
私は雪は嫌いだ。だって寒いし歩きづらい。交通機関に影響が出ることもある。上京してきて、めったに雪が降らないのが、とてもいいなあと思ったくらいだ。
朝、外へ出ると、シンと冷たい空気。天気予報には雪マークがついていた。今日は雪が降るのだ。それも、積もると予想されていた。
雪が嫌いな私は、ただ憂うつな気分になるだけのはずだったのに、そうはならなかった。雪が好きだと語ったあの人の横顔が、しんしんと静かに降り積もる雪に似たあの静かな微笑みが、何故か思い出されて。
あの人が語った雪の美しさを、久しぶりに見てみたい、なんて、思ってしまった。
雪嫌いのはずなのに、なんで。自分でも自分の心がわからなかった。
職場に着いて、窓の外を眺めながら、あの白い一片が降りてくるのを待ちわびる。
雪嫌いの私は、何故か今、雪を待っていた。
12/16/2024, 8:15:21 AM