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繊細な花


俺は貴方を見かけた時に思ったんだ。

貴方は、繊細な花みたいな人だって。

毎朝、花壇で一人、色とりどりの花を咲かせる植物の手入れをしながら、微笑む貴方を見て。
なんて、身も心も綺麗で、素敵な人なんだろう、って。

帰宅部の俺が、部活の朝練のある友人に付き合って、早い時間に登校するようになって、数日。
教室の窓から見える花壇を手入れする彼を見かけてから、俺は毎日飽きもせず、その様子を眺めていた。

というより、見惚れていたんだ。

だから、直ぐに彼の異変に気が付いた。
彼はいつもの様に、近くの水道から引っ張ってきたホースで、花壇に水を遣っていたのだが。
どうも、その様子がおかしい。
いつもなら、色とりどりの花達を慈しむように眺めているのに。
今日は俯きがちで、花達をあまり見ていない。
ホースを握る手が揺れていて、何だかしんどそうだと思った瞬間。

俺は教室を出て、花壇へと向かっていた。

「大丈夫ですか?!」

なんて、俺の突然の登場に驚いて、目を見開く彼に。
躊躇いもなく声を掛ければ。

「……えっと、君は?」

「教室から花壇が見えて、貴方が体調悪そうにするのが見えたからきちゃいました」

ほら、あそこの教室です、と。
俺が見上げて、自分の教室を指差すと。

「そう、だったんだ。心配してくれてありがとう」

でも、大丈夫。
ちょっとフラついただけなんだ。
なんて、手を止めていたホースを動かし、花壇に水を遣り続けようとする彼に。

「無理しないでください」

花達に水を遣るのも大切だと思うけど。
貴方にはもっと自分を大切にしてほしいから。

もし、貴方が自分自身を大切に出来ないのなら。
俺が貴方を大切にしたい。

「これ、良かったら飲んでください」

と、俺はここに来る途中の自販機で買った、ペットボトルの水を、彼に差し出す。

「貴方が花達にしか水を遣れないなら、俺が貴方に水をあげます」

なんて、言葉も添えて。

すると、目を丸くしていた彼が、あはっと吹き出す様に笑ったかと思ったら。

「君面白いね。ありがとう、受け取るよ」

と、俺からの水を受け取ってくれた彼は。
俺がずっと間近で見てみたいと思っていた、花壇に向けるような、優しくて綺麗な微笑みを浮かべていた。

あぁ、やっぱり、貴方は花みたいな素敵な人だ。


                      End

                      


6/25/2024, 11:14:55 AM