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時計が午前二時を指した。

切りの良いところまで入力を済ませ、Ctrl+Sを押してソフトを閉じる。
音もなくソフトが閉じると、見慣れたデスクトップが滲んで見えた。
シパシパとした違和感は、眼精疲労によるものだろう。
電気代節約の為と電気を消してパソコン作業していたことが仇となったらしい。

眉間をグッと揉んで解すと、目の奥の方がジンと痛んだ。
これは、なかなかの疲労具合だ。

深夜まで残業して、電気代ケチって目を痛めました。なんて助手の彼女に知られたらただじゃすまないだろう。

「また怒られちゃうな」

彼女の怒った顔が脳裏に浮かんできて、思わず苦笑が漏れる。

「証拠隠滅は…今日は難しいか」

自分の家に帰って、翌朝何食わぬ顔をして出勤する──何時もの手口を使えば、お咎めは避けられるだろう。
しかし、目の奥の痛みを自覚してからというもの身体の怠さも自覚してしまい、家に帰る気力はもう無い。

「…しょうがない」

僕は深いため息をつくと、重たい体を引きずるようにして、研究所の二階にある仮眠室へと向かった。

仮眠室は、住居としても利用されていた時の名残りだ。
窓のない狭い空間に簡易ベッドがあるだけという非常にシンプルな作りをしている。

定期的に掃除をしているのでそこそこ小綺麗ではある。

重い足取りでようやくベッドまで辿り着くと、白衣のままベッドへダイブする。
白衣がしわくちゃになってしまうがこの際関係ない。

彼女に怒られるのは決まっているのだから。

軽い衝撃とボスンという気の抜けた音を聞いたのを最後に、僕は深い眠りへと落ちていった。

6/4/2024, 2:57:17 PM