【約束だよ】
「柊」
「はい」
緩く名前を呼べば、ベッドの縁から聞こえるには似つかわしくない固い返事が帰ってくる
「今日のこと、誰にも言っちゃダメだよ」
「え、はい言いませんけど…」
「うん、バレたら俺溶けて消えちゃうから」
「溶けっ、え?」
冗談に素直に慌てる柊に少し笑って、素肌に触れるシーツの感覚に身を丸めた
「2人だけの秘密、ね?」
「…はい」
表情が緩い、そんなに嬉しかったのか
ここまでするのは初めてだったが…まあ、柊相手なら悪くない手段だ
体を持ち上げれば、薄い布団がぱさりと落ちて少し肌寒い
「ん」
「…なんですか?」
「指切りげんまん、知らない?」
「知ってますけど…」
「じゃあはい」
無理やり柊の小指に自身の指を絡ませ持ち上げる
「約束、ね」
「約束…」
「約束だよ、2人の約束」
言いふらすような事でもないが、柊みたいな奴にはこういう言い方は効きやすい
約束、それは可愛らしい名前の呪縛
「ゆーびきりげんまん…」
子供の頃から幾度となく繰り返したその歌は、神経毒のように人々に染み込んでいく
「…律さんってたまに凄く可愛いですよね」
「……そうかな?」
いいこ、いい子だ、柊
そのまま、そのままでいて
6/3/2025, 4:31:15 PM