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モンシロチョウ

多分、偶然だった。
その日、白くてヒラヒラものが目の前を通り過ぎて行った。ちょうちょだと思って、視線を向けたらかなり先にいた。
足を向けたのは一体なぜだったか。
兄弟の中でも小さいもの達と一緒に蝶を追いかけたことがあった。春、温かい日差し。笑いながら、広い庭を探検しながら追いかけた。やがて一匹が二匹になって、くるくると回りながら飛んでいくのを、兄弟達と見送った。
だから、きっと思い出に引かれたのだろう。
とんとん、たたとん、ととたんたん。すっきりとした青空がステップを誘う。
広い庭から家屋の方へ。飛んでいた蝶は、突然羽を休めた。
探検も休憩。その場に腰を下ろして蝶を見る。その奥に、見覚えのある空色があった。数の多い弟達をいつも率いている長兄が、外廊下を進んでいた。歩みの先には執務室。そろそろ休憩の時間だろうか。
そういえば、いつか外廊下に兄がぼんやりと座っていたことがあった。あの頃の兄は不安げで、寂しそうで、話しかければ切なそうに笑っていた。
唐突に思い出して、はっとして視線を戻せば、兄は既に執務室の中。目を引く空色の髪は障子の向こう。
蝶が飛び立つ。どこからかもう一匹やってきて、寄り添いながら飛んでいく。
兄と審神者がいるはずの部屋の前にしばらく戯れてから、二匹はどこかへ飛んで行った。

多分偶然だ。
蝶からカサカサと音がしたのも、その音が、かつてこの本丸の審神者だった男が使っていた式からするのと同じだったことも。
悪戯が好きだった彼の、驚く男士を見る時の笑顔が、かすかに浮かんだ気がした。

5/10/2026, 2:22:28 PM