シュグウツキミツ

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予感

「どうしてわかったの?」
春日くんが尋ねてきた。
……そう聞かれても、僕にもわからなかった。
「えと……なんとなく……」
その答えは望んでいたものではなかったらしく、不思議そうな顔で去っていった。
また一人。
クラスのざわめきが水の中から効いている音のようだ。
俯いて、足をぶらぶらと揺らす。あとどのくらいで昼休みが終わるだろうか。

さっき、花瓶をどかしたんだ。教卓にある、ミルク色したガラスの花瓶。その場所になにかがくる気がして、隣の棚の上に置いた。
その時だった。
前川くんが蹴飛ばした誰かの上履きが飛んできた。
上履きは、さっきまで花瓶があった場所を通り過ぎて行った。

僕にはたまにこういうことがある。なにかがはっきりと見えるとか、そういうことではないんだ。
ただ、予感がする。
なにかが来る、と。

ホームルームが終わって帰ろうと教室を出た時だった。
春日くんが立っていた。友達と一緒じゃないのか。
「ねえ、教えて。さっきどうやってわかったの?」
「そう言われても……さっき答えたのと同じだよ」
なんとなく。本当にそうとしか言えないんだ。
「ふぅん、ねぇ、ちょっと一緒に来てよ」

春日くんに着いていくと、校舎の裏のビオトープの所まで来た。
「どうしてこんなとこに連れてきたの?」
「誰にも見られたくなかったんだよ」
さっきまでの声とは違う。低くて、なんだか大人のような声。
「春日くん……?」
思わず一歩下がる。
目も、なんだか鋭く冷たい光。
「まだ思い出さないの?君には役割があるだろう?」
何を言っているんだろう。
「これを 見ても」
と春日くんがポケットから取り出した。
青く光る、石。ゴツゴツした石の表面にに光が当たるとキラキラする。
「綺麗だね、どうしたの、それ」
すると、スッと表情が消えて、しばらく黙った。
「まだか」
と呟いて、そのまま行ってしまった。

やれやれ、気づかれ始めたようだ。この格好もこれまでか。
僕は「皮」を脱いだ。透明な手足が出る。窮屈な身体だったが、それもこれまでだ。
誰にも見つからないように、足早にその場を去る。
こんなところで「石」を取り出すなんて、まだまだヒヨっ子だな。そんなんじゃ、僕は捕まらないよ。

「スミマセン、逃がしました……てっきり僕らの見方だと思って……ハイ、ハイ、わかっています……ハイ…次こそは。ええ、タイムパトロールの名に賭けて」

10/22/2025, 9:16:12 AM