あじゅ

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運命的な出会いとか、雷が落ちるような衝撃だとか、そんな物語の冒頭みたいな事なんてない。ただ偶然に、そこに在っただけの、どこにでもあるどうしようもない始まりだった。
同じクラスの、隣の席の、地味で人見知りな真面目ちゃん。第一印象はたったそれだけ。正直相容れない存在だと、嫌煙すらしていた。それなのに……。
(何で、好きになっちゃったかなぁ…)
授業中、くだらない先生の話を右から左へ聞きながしながら、そっと隣に視線を送る。飾り気のないシャープペンシルがカリカリと音を立てながら、僅か5ミリの罫線の隙間に黒い跡をつける。ピンと伸びた背筋に、伏せられた長い睫毛。器用に編み込まれた髪の毛は、一見地味で何でもないようなのに、気づいてみるとこんなにも美しい。校則を破らず、いっそ守り過ぎているはずの彼女は、この学校という箱庭の中で一等綺麗だった。
ふと自身の髪に手を当てる。高いお金をかけた胡桃色は、手間に反して痛みが見える。長く整えた爪先の小さなラインストーンが、窓に映る瞼と同じ輝きを放っている。
清楚とギャル、優等生と不良。交わらず、決して分かり合えない存在。私は私を曲げられないし、あの子が変わるハズもない。わかっているのは、もう何もかもが手遅れだということだけ。

4/19/2025, 9:45:42 AM