セイ

Open App

【日差し】

僕は日差しが嫌いだ。
というより、吸血鬼だからそもそも日光が駄目なんだ。
日光を浴びると身体が灰になるから。

僕ら吸血鬼は生まれてからずっと夜の世界で活動し、ニンゲンの血を飲んで過ごす。
ここ数年は吸血鬼ハンターと呼ばれるニンゲンたちが大きなギルドを作り、僕らを狩りにくるので食事は最低限。飢餓に強いとはいえ、かなり貧困な暮らしをすることになった。

吸血鬼ハンターにより、同胞は一気に数を減らした。
女、子供、赤ん坊も関係なく、奴らは僕らの生活を破壊した。
ヒトを襲うのが苦手な吸血鬼は自分から隷属になり来た物好きなニンゲンや輸血パックで何とかしていたから迷惑を掛けていないのに、奴らは「吸血鬼」ってだけで殺戮を繰り返した。その姿はまるで悪魔。
僕らはただ生きるためにニンゲンの血を欲しているだけなのに。
奴らのせいで家族を失い、悲しみに暮れた吸血鬼は決して少なくない。

こんなに苦しくなっても吸血鬼ハンターたちは止まらなかった。
僕らの首に多額の賞金を賭け、目撃情報を提供するだけでも謝礼を渡し始めた。
僕らはあっという間に住処を追われ、ニンゲンが殆ど居ない場所へと隠れるようになった。


日光を浴びながら寝ると、ポカポカとあったかくて気持ち良いのだという。
…まぁ、僕とは無縁な世界だ。

ある日、吸血鬼ハンターが住処に向かっているとの情報を得た。
この中で1番動けるのは僕。
なら、今僕がやるべきことは…同胞を逃がすこと。

そして僕と吸血鬼ハンターの長い長い鬼ごっこが始まった。
逃げながらもヒトを過剰に襲って騒ぎを大きくした。
1人で沢山襲って危険度を上げればギルドから「ネームド個体」で登録される。
「ネームド個体」になれば討伐優先度が上がり、吸血鬼ハンターたちはその対処に追われる。僕の負担は上がるが、代わりに無名の同胞たちは動きやすくなる。
それが狙いだった。

日中は地下や日の入らない森で逃走、夜になれば街でヒトを襲って血を啜る。
それを繰り返している内に体調が悪い日が続くようになった。
短時間での血の吸い過ぎもあるし、まともに寝れていないから仕方がない。
だけど正直、肉体的にも精神的にもかなり限界だった。

「そろそろ潮時…だな」

僕は最後、奴らに一泡吹かせてやろうと思い、あることを決行することにした。

真夜中の鬼ごっこは中々にハードだった。
トップハンターが総出で僕を叩きのめしにきていた。
僕の首に賭けられた賞金が相当膨れ上がっているみたいで、みんな血眼。
わざわざ遠方から僕を狩りに来ている奴も居るらしい。
…あと十数分で夜が明ける。
走るなら、今だ。
最後に自慢のスピードで吸血鬼ハンターから距離を取る。
追ってこれるようにわざと自分の血を点々と残しながら…。

僕が向かったのは数日前に見つけた絶景ポイント。
この場所を見つけてから僕の最後は此処だと決めていた。
夜は明け、太陽が顔を出し始めている。
この木の影から出れば、全てが終わる。

目を瞑り、深呼吸をした僕は数歩前に出て日光を浴びた。
焼けるような痛みが身体全体に広がり、ジュワジュワと指先から感覚がなくなっていく。

「おひさまって…あったけぇなあ…」

手足から無くなり、下半身、上半身と灰になった。
残ったのは首から上だけという所で遠くから足音が近づいて来た。

意識を手放す前、最後に見たのは僕を追って来た吸血鬼ハンターの姿。
僕らは最終的に灰さえも残らない。
だからコイツ等は僕1人に半年以上も掛けて何も得られない。
生活が掛かってた奴も居るのかもしれない。
けど、そんなの知ったこっちゃない。
お前等に利用されるぐらいなら喜んで死んでやる。
なんなら先日、逃がした同胞が「種」を蒔き終えてくれたとの連絡を受けた。

さぁ、今度はお前等が狩られる番だ。

ざまあみろ。

7/2/2024, 9:00:27 PM