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 トビウオは空を飛ぶ。
 『鳥のように』とはいかないけれど空を飛ぶことが出来るトビウオは、魚界のチート使いと言っても過言ではない。
 彼らはひとたび海から出れば、当たり前の様に100mくらい飛ぶのだ。
 方向転換も出来るし、途中で飛ぶのを止めることもできる。
 少しの時間だけとはいえ、トビウオは鳥になるのだ。

 それにしても、なぜトビウオが空を飛びようになったか……
 それは自分を食べる捕食者のマグロやカジキなどから逃げるためだ
 そして食料として狙ってくる人間からも逃げる必要があったのだ。
 海は危険がいっぱいである!

 『だから海から出よう』と思うのは、当然の帰結であろう。
 意外にも短時間だけなら海から出る生物は多い。
 その事実だけでも、どれだけ海が危険かが分かるだろう。

 だが我らがトビウオは格が違う。
 海から飛び出て空を飛ぶことで、抵抗が少ない空気中を高速で移動し逃げれるようになったのだ
 マグロやカジキから逃げ切れる頻度が格段に高まり、トビウオは栄華を極めるかと思われた。

 ところが現実は甘くない。
 海から出て、危険が無くなったかと思えば、今度は鳥たちに襲われ始める。
 海に潜れない鳥たちにとって、トビウオは格好の餌であった。

 そして相変わらず人間からも襲われた。
 飛ぶなら撃ち落とせばいいと、物を投げてくるようになったのだ。
 そしてトビウオは、海ほどではないが多くの仲間を失った。

 新たな危機に直面し、トビウオたちは考えた。
 海を出ても様々な危険から逃れるには、どうすればいいか。
 そして思いつく。
 空から飛び出せばいいと……
 そしてトビウオは、長い時間をかけて研鑽を重ね、ついに地球の外ま――衛星軌道上まで飛び上がることに成功したのである。

 未だに上昇中は鳥に襲われるが、危険は格段に減った。
 衛星軌道上では、うまく動けないが問題ない。
 ひとたび衛星軌道上まで飛び上がれば、恐ーい鳥ははるか下。
 自分たちを狙う敵は存在しない。

 しかし例外もいる。
 人間たちが未だに追ってくるのである。
 とはいえ、うまく動けないのかこちらに近づくことは無い。
 人間たちの執念に恐怖を覚えつつも、トビウオは衛星軌道上で栄華を極めるのであった。

 しかし、他の問題が起きる。
 地球にうまく戻れなくなる個体が出てきたのだ。
 衛星軌道上では、地球の引っ張る力が弱く、力加減を間違えるとそのまま離脱してしまうのだ。
 そうして不幸にも離脱してしまったトビウオたちは地球に帰る事が出来ず、いつ終わるか分からぬ宇宙の旅に出るのであった。


 ×××年後。

 人間たちはついに宇宙に進出。
 太陽系を手中に収め、その外に飛び出そうとした、まさにその時だった。
 人間あてに、未知の通信が入って来たのである。

「ニンゲンさん、遅かったですね。
 宇宙は我々の物ですよ」
「貴様らは何者だ」
「我々は遥か古代に地球から飛び出したトビウオの祖先です。
 名乗るとすれば、トビウオ星人でしょうか」
「そ、そんな……
 我々よりも先に宇宙を渡った存在がいるなんて」
「支配していないのは太陽系だけ……
 これがどういう意味か分かりますか?」
「ま、まさか!」
「そのまさかです。
 どうやっても地球に帰れないので連れて行ってください。
 我々、飛び出すのは得意なのですが、目的地にちゃんと着けないんですよね……
 いやはや、鳥のように目的地に向かって飛ぶのは難しいですな」

8/22/2024, 1:26:57 PM