その通知音は他と、なんら変わりない軽さで俺の意識を引き寄せた。
公式LINEがほぼの、俺のそのアプリの使用頻度はもう何年も変わらない。
十代や二十代ではない。
友達と暇があればやり取りをしていた時代はもう遠く、仕事でも滅多に使わないその通知音は、鳴ってもチラリと横目で相手を確認してそのまま……。
通知は三桁近い。
見ないならブロックでもミュートでもすれば良いのだろうが、それすらも億劫な程俺の日常は怠惰だった。
恋人と別れたのはもう二年前、それからその緑のアイコンは俺にとってほぼ飾りに近い。
『若菜』
ソファーにだらしなく座り、撮り溜めた映画を見るとも無く見ていた俺は、一瞬見間違いかと固まった。
別れたのは二年前。
……そんなはずはない。
しかし。
俺は別れた恋人若菜をブロック出来ず非表示にしていただけだった。
ハードワークで疲れた目が、見間違いをするより高い可能性。
何故かソファーの端で落ちそうになっているその小さな機械に手を伸ばせず俺はそれと睨み合っていた。
『二年待ってくれ、その頃には俺昇進してるはずだから、そしたら君に構ってやれる』
『構ってやれる?別に無理に構って"貰わ"無くても大丈夫よ』
仕事に熱中して彼女を独りにし過ぎた俺に、彼女は愛想をつかした。
外は茹だるような暑さで。
ちょうど、こんな休みの...久しぶりに二人の時間を持てた日の事だった。
……二年。
二年経っていた。
怒って部屋を出て行ったきりの彼女。
ちょうどそれを追い掛けず見送ったその場所で。
俺の死にかけていた感情が騒ぎ出した。
7/11/2023, 10:28:32 AM