泣かないで
数年振りの扉は想像よりも重たく感じた。そこへ足が向くまでに何万回の葛藤があったのだろう。
体重をかけながら扉を強く押した。世の中にはこんなに沢山の人間が鼓動を鳴らしているのかと思い込む位には、そこは息が溢れていた。あなたは笑顔だった。と同時に自分は体温がどんどんと下がっていく気配がした。
想像と違っていたり、理想を求めていた数分前の自分には、どんな言葉をかければいいのか解らなくなった。
正解は無い物ねだりだとしても、自分には見付けられなかった。ただ、あなたは笑顔だった。それだけで良かった。
どうか心よ。泣かないで。もう何も無いし、行き着く場所はない。ここであなたが笑顔で在るならば、それが答えなのかもしれないね。
踵を返す足取りは事実よりも重たく感じた。振り向いた先の扉の暖かさに涙は零れなかった。夜の風が吹き込んでくる。冷たく纏わりつくそれは、優しい気持ちがした。
11/30/2022, 12:09:24 PM