未知亜

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ㅤ入学後のガイダンスで隣だった奴に誘われて、そのまま飲みに行くことにしたのは、家庭教師のバイトが休みになってこのまま家に帰るのが味気ないと思ったからだった。
ㅤ遅れてやってきた君は、居酒屋の扉を開けたまま、しばらく辺りを見回した。熱気の籠った店内に、春の風が吹き込んだ。誰かが「涼しー」と歌うように呟いた。
ㅤこちらに向かって手を振る君の背後で、桜の花がふわりと踊った。のは、酔いのせいでは決してないと思う。花びらは確かに舞いこんでいたし、そこだけライトでも当たるかのようにキラキラと爆ぜていた。一目惚れってほんとにあるんだと、どこか冷静に僕は考えたあの日。
ㅤ僕は春と、恋に落ちた。



『春恋』

4/16/2025, 9:25:49 AM