秋月

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「僕は刹那的享楽主義者なんだ。今が楽しければ明日死んだって構わない」
そう嘯く彼に、恋人が出来ても同じことが言えるのか? そんな疑問をぶつけた。

「恋人が出来たら? 出来たことがないからわからないね。でも、こんな僕と付き合ってくれるんだ。さぞや理解のある子なんだろうね」
恋人が欲しいと思ったこともないのか?

「そもそも、僕は恋なんてね、したくて出来るものではないと思ってるんだ。よく言うだろう? 恋に落ちた、とか稲妻が走った、ってさ。それぐらい衝動的に始まるものとも言うじゃないか。僕だって一度は恋とはどんなものかしら、なんて恋に恋したときもある。……なに? 似合わない? うるさいな、わかってるさ。そういう君はどうなんだ? 君だって恋人が居たことないだろう」
私の事はいい。今は君の事だよと言うと「いいじゃないか少しぐらい。ずうっと僕ばかりが話してたんだ、一つくらい答えてくれたっていいだろう?」何て言うので、仕方がない一つだけだと許可をした。

「やった! そうだな、何を聞こうか……。そうだ、僕に随分と恋はしないのかと聞いていたね。君も恋をしたことがないのかい?」
いいや、しばらく前から叶わないものをしているよ。

「えっ! そうなのかい? なんでもそつなくこなす君でも、成就させると言うのは難しいことなんだなぁ! どんな子なんだい? 可愛い子か、綺麗な子か……。君が好意を寄せる相手だ、きっと素敵なんだろうね。今度紹介してくれないか? 是非見てみたいんだ」
「無理だ」
「どうして! 意地悪かい? 君には時々そういうとこがあるよな」
「……なら聞くが。君に君を紹介とは、どうすればいいのか教えてくれるか?」
「えっ」
つい、口を滑らせてしまった。いくら懐の広いやつでも、親友……友人からお前の事が好きだと言われて、これまで通りに仲良くするのは出来ないだろう。

「……悪かった」
沈黙に耐えきれず、話をしていた喫茶店から出ていこうとしたとき「待って!」と、腕を掴まれた。

「なんだよ」
「あの、ちょっと、待ってくれないか」
「振るなら、早くして欲しいね」
「違う! 違うんだ、本当に、頼むよ……僕に言葉をまとめる時間をくれないか」
「……わかった」

他の客達には騒がしくして申し訳ないと思うが、手を離して貰えないから仕方がない。どんな顔をしているのだろうと確認したい衝動に駆られるが、どうやってうまく断ろうかと考えている顔だったりしたときには、私が交流を持つのに耐えきれなくなるだろう。
飲みきっていなかったアイスコーヒーがなくなって、氷が形を失うほどの時間が経っても何も言ってくれない君に、いい加減腹が立ってきて何か言ってやろうと正面を向いた。ら、まさか。顔を真っ赤に染め上げて、明らかに挙動不審になっているとは思いもしなかった。

「……は、」
「あっ、うぅ……。……信じて、もらえないかもしれないがね、君に、ここまで言わせてようやく、僕も君に恋していたことに気が付いたんだ。どんな友人といるよりも、誰に持て囃されても、君といる時間が、君のたった一言が楽しくて嬉しかったんだ。君は僕の親友だから、他の誰といるよりも楽しくて嬉しかったんだと思っていたし、君が別の友人と遊んでいたときの話を聞いて、そんなやつより僕と遊んでくれたらいいのにって思ったこともあった。こ、これが嫉妬だなんて思ってもいなかったんだよ……。幻滅したかい? こんな僕じゃ、君の恋人にはなれないかな」



この後の結末? そんなもの、わかりきったことだろう。言うなれば、読者の想像にお任せしますというやつだ。好きなように想像してもらって構わない。では、またどこかで。

4/28/2023, 12:11:11 PM