「あー、38.2度…かなりの高熱だね、大丈夫?」
成人してから初めて風邪をひいた。額に冷えピタを貼ってぐたぁ、とベッドに寝転んでいる。
彼がずっと看病してくれている。心配そうな顔をしつつも彼は私に話しかける。
「同棲始めてから初めてじゃない?風邪ひくの」
「うん…うつしたくないからさ」
「そっかぁ、気遣ってくれてたんだね」
「ちょっと喉見せてみて、場合によってさ喉の薬も持ってくるから」
そんな痛くもないけれど、私は彼に従って口を大きく開けて喉を見せる
「んー、そんな赤くもないね。痛くなーい?」
「うん、咳と頭痛くらいだから大丈夫だよ」
「そっかぁ、わかった。薬とってくるね」
と言って彼は部屋から出ていこうとした時
私は無意識のうちに彼の服をギュッと掴んでいた
「どうしたの、海暗?」
「い、行かないで…」
そう言った時、少しだけ視界がぼやけるのが分かった
「でも、薬取りに行かなきゃ。俺はどこにも行かない、だから大丈夫。ね?」
「大丈夫、なんて。そんな言葉はいらないの。私はただ…貴方に隣にいて欲しい。
私、そう言って貴方がどこか行ってしまわないか、とても、心配なの…」
「…海暗。」
「何…?」
「俺は、海暗を裏切らない。だから心配しなくていい。安心して」
視界がぼやけるのが分かった。
「……分かった。でも、早く戻ってきてね。」
「もちろん。んじゃ、ちょっと待っててね」
ガチャ、とドアを閉める音が聞こえた
さっきの言葉、彼に放った言葉はいらないっていう言葉を思い出してふと呟く。
「…子供の時の名残かな...あの時のは」
私は昔のことを思い出した
ー海暗。一人で大丈夫よね?お母さん、仕事行くけど一人でいれる?
……分かった。お母さん、お仕事頑張ってね。
ありがとう、海暗。あと、ごめんね
一緒にいてあげられなくて。風邪治ったら一緒にどこか行こうか。
うん、約束。
それじゃあ行ってくるね。何かあったら言ってね。
うん、行ってらっしゃい。
「…海暗?寝ちゃってた?」
「あ、戻ってたんだ。言ってくれればよかったのに。」
「うん、薬飲んでもらおうと思って起こそうと思ったけど、魘されてたから。
…昔のこと思い出したの?」
「そうなんだ。今日みたいな風邪ひいた時に、誰も一緒にいてくれなかった。
そりゃあ、仕事とかあるから仕方ないけどさ。だけど一人は辛かったな。
だからさっき貴方にあんな事言っちゃった。ごめんね。」
そう言うと彼はギュッと私を抱きしめる。
「それを先に言ってくれれば良かったのに、海暗は一人で抱え込もうとしすぎだよ。」
「そう、かな?えへへ、ごめん」
「謝んなくていいよ。寧ろ謝るのはこっちの方だよ。早く気づけばよかった。」
「……ううん、大丈夫。あ、体温もっかい測ってみる?
熱引いてる気がするんだ。」
「そうする?はい、体温計」
私は昔の事を思い出した時から熱が下がっている気がしていて早速測ってみることにした
結果、36,5度。まさかこんな早く治るとは。
「風邪ってこんなすぐ治るもんなんだね…」
「そうだね、でも今日は寝てな?」
「そうする、でもそうすると色々任せちゃうね」
「困ったときはお互い様だよ。気にしないで」
「そう?なら頼る」
「分かった。おやすみ。」
私はそう言われて静かに眠りについた。
貴方は頬に手をやり、こっちを寝るまでずっと見ていてくれた
それにとても私は安心した。
………昔から私はこうやって欲しかったんだ。
大丈夫、とかいう励ましの言葉より。
治った後の約束より。
こうやって一緒にいて欲しかったんだ。
そう思いながら私は貴方とずっと一緒にいる夢を見ていた。
8/29/2023, 1:17:44 PM