やなまか

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【きっかけ】

布団から片手がよろよろと出てくる。
私は苦笑してその手をもう一度ベッドに入れる。物凄く熱い手だった。
「し、死ぬ前に言いたいことが…」
かすれた声がくぐもって聞こえてくる。
「死なないよ風邪だもん」
「やだ、絶対悪い病気なんだよ、オレ死ぬ前にお前に言いたいことがあるんだ」
「気弱になっちゃうのは分かるけどさ」
彼の言葉を遮ってでっかい布団の塊をぽんぽんと叩く。
「治ったらいーっぱい聞いたげる。ずっと側にいてあげるから早く治しぃね」
「ほんとか?」
子供の泣く寸前の声のようだった。ほんとだよ。念押しして部屋をでる。うーん。ちょっとサービス良すぎたかな。

何年も何年も側にいる羽目になる2日前のことだった。

12/16/2023, 11:14:03 AM