アイツと出会って12年、アイツに恋をして3日。俺は未だ、乖離した頭と体の制御ができずにいた。頭は今すぐ隣に座るアイツを抱きしめて隠してしまいたいが、理性を繋いだ体はそれを抑え込む。恋心をギチギチ音がするくらいきつく縛って隠して、そうやって取り繕っていた。
幼馴染だったアイツとは、友愛も、親愛も、家族愛さえも分け合っていた。けれど、一つだけアイツも俺も注がなかった愛情がある。それが恋愛だった。恋をするにはお互い近すぎたし、俺達にとって互いに恋をすることは、家族に恋をするも同義だった。
しかしまぁ、惚れてしまったのだ。ある日突然、ころりと落ちるように。きっかけは本当に些細なことで、屈託のない笑顔を見た。それだけだった。世界を疑うことさえ知らないような澄んだ目が陽光を乱反射して、俺の目の前にぱちぱちと火花のように散らした。アイツが俺に向けているのは恋愛ではないと知った上で、俺はアイツに恋をしてしまった。
自覚してしまうと、一緒になることはできないと分かりきった関係が辛くなった。ありとあらゆる愛情の中から、恋愛だけを差し引いた重さ。これまで積み上げてきた感情が、重りとなって俺の身にのしかかってくる。重くて息苦しくて、けれど手放すには惜しい重みはゆっくりと俺を蝕んだ。
きっと、ずっと前から惚れていたんだと思う。そうでなければ、きっとこんなに苦しくない。こんなことなら、恋なんて気付くんじゃなかった。それならきっと、愛から恋を引いたこの重みは、俺の腕で抱えられていたのに。
放課後を告げるチャイムが鳴る。2人して掃除を抜け出していた俺達は、2人きりの校舎裏で鞄を持って立ち上がった。
「帰るかぁ……」
気の抜けた声でアイツが言う。少し肩が触れるほど近い距離感は、間違いなく特別で。けれど、それは恋じゃない。兄弟にハグをするような、そんな温度。アイツが俺に向ける愛情と、俺がアイツに向ける愛情とでは重さが違う。その差はどんどん開いていって、たった3日で取り返しがつかなくなってしまった。
俺だけが抱く恋愛感情は、醜く歪んでそれでも膨れて、これまで抱いていたその他の愛情をあっという間に飲み込んでしまった。
アイツと同じ、友愛や親愛の皮を被せただけのハリボテ。汚くて救えない本質は変えられなかった。それでも、どうか。この化けの皮が剥がされないことを願う。アイツにこの重さをぶつけることも、かと言って捨てることもできない。それならせめて、痛みを伴ってでも皮を被せて隣にいたかった。
愛−恋=?
10/16/2025, 8:21:57 AM