ミミッキュ

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"空を見上げて心に浮かんだこと"

「いい天気だな」
「雨よりはいいが、暑い」
 なんでほぼ無風なんだよ、と続ける。
 中庭のベンチで横並びになって、お互い空を見上げながら言葉を交わす。
「あ」
 空に浮かぶ一つの雲に目が止まり、思わず声が漏れる。
「なんだ?」
 反応して、不思議そうに聞いてきた。
「いや、その……なんでも──」
 ねぇ、と続けようとしたが、向けてくる回答を待つ純粋な目に声が詰まり、言葉が途切れる。
 この目は答えるまで離してくれない目だ。
 観念して、口を開く。
「……あの雲。湯船に浸かってる時のハナのだらけた格好にそっくりな形してんなって」
 雲を指しながら説明する。
 恥ずかしさで僅かに声が震えた。説明を終えた後、みるみる顔が熱くなってくる。
 ちらりと横を見るとすぐ近くに綺麗な横顔があり、俺が指した雲を見つけると「あれか」と至近距離で呟いた。心臓が、トクン、と跳ねる。
「お前はあの雲の形で、入浴している時のハナの姿が浮かんだのか」
「……だからなんだよ」
「確か、形状から何を連想したかで心理を分析する性格診断法があると、前に聞いた事があったのを思い出してな」
「ふーん」そんなものがあるのか、と思いながら相槌を打つ。
「ただ『そんな方法がある』と聞いた事があるだけで、どのような診断法かまでは知らない」
「だろうな」
 自分の専門外のものには殆ど興味を持たない。今はだいぶマシになったが昔はもっと極端だったから、存在だけ聞いて具体的な事までは耳に入れていないのは当然だと思った。それが言葉となって唇の隙間から漏れた。
 言ってしまった、と咄嗟に片手で口を覆う。だが苦笑しながらこちらを向き「当然の感想だ。なんとも思わん」と、まるで昔の自分に呆れた表情を見せるように言ってきた。
「そろそろ時間だ。行くか」
 腕を持ち上げ、その手首に巻かれた腕時計を覗き込みながら立ち上がった。
「ん、あぁ。もうこんな時間か」
 俺も自分のスマホの時計を見ながら呟き立ち上がり、どちらからともなく歩き出した。

7/16/2024, 2:19:31 PM