美佐野

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(二次創作)(誰よりも、ずっと)

 爽やかな海風が吹く。今日も浜茶屋の営業が始まる。客の殆どはルルココ村の住民だが、最近はつゆくさの里やウェスタウンの人もたまに顔を出すようになってきた。そして、そのきっかけとなった牧場主ナナミも。
「って、何でそんなにだらけてるのヨ」
 イゥカの目の前で、テーブルに突っ伏したままナナミは動かない。顔色が悪いとか、寝ているようではなく、単にだらけているだけのようだ。しばらくして、ルデゥスがよく冷えたジュースを持ってきたが、ナナミは動かなかった。
「ちょっと、営業妨害なんだけど?」
 それでも起きないので、トレードマークの三つ編みを引っ張ったり、麦わら帽子を外したり、脇腹に軽くチョップをお見舞いすると、ようやくのそりと動き出した。
「だってぇ……」
「だって、何ヨ」
「せんせー、ほんとにわたしのこと好きなのかなぁ……」
 せんせーとはウェスタウンの医者フォードである。堅物と有名な彼と、目の前の牧場主は、なんと恋人関係にあった。イゥカ自身はあまり会ったことがないが、郵便屋のウェインに言わせれば、誰もが驚く組み合わせなのだとか。
 イゥカは、仕方なく彼女の悩みに付き合うことにする。
「まったく会ってくれないとか?」
「ううん、毎日お昼ご飯食べに行ってるー」
「デートができないとか?」
「3日に1回は牧場に来るー」
「好きと言ってくれない?」
「わたしといるとほっとするんだってー」
「…………」
 イゥカはフォードとやらをよく知らない。だが話を聞く限り、これは愚痴ではなく惚気の気がしてきた。イゥカは、ややぬるくなったジュースをごくごく飲んだ。その間も、ナナミはつまらなさそうに、寂しそうに海を眺めている。
「アンタ、十分に……」
 愛されてるわヨ、と言いかけて、やめにした。彼がナナミを誰よりもずっと好いていることは、ナナミ本人が自力で気付くしかないのだ。

4/10/2024, 9:24:57 AM