いぐあな

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300字小説

秘恋

 画家の叔父には、これは自分の為だけに描いたのだと、とても大切にしている絵があった。
 うちの庭をアトリエの窓越しに描いたもので、薄い青の空の下、満開の淡い桜と東屋が配置された美しい風景絵だった。彼はその絵を時折、切ないような笑みを浮かべ眺めていた。

 叔父の死後、遺言で棺に入れ、共に燃やすよう言われていた絵を、僕は無理に頼み込んで引き取った。その絵を主のいなくなったアトリエのイーゼルに立てる。
「ここから描いたんだ」
 時は絵と同じ春。薄い青の空の下、満開の桜が咲いた東屋で母が日課の午後のお茶を楽しんでいる。
 その時、僕は叔父のサインの上、鉄筆で引っかいたように記された絵の題名に気付いた。
「……『本気の恋』」

お題「本気の恋」

9/12/2023, 11:59:15 AM