ミヤ

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"青い青い"

祖父は、彼女の命日には決まって正体を無くすほど酔い潰れた。
僕を横に置いて彼女の思い出話をするか、彼女の写真を前に延々と謝罪を繰り返すか。
僕は相槌を打ちながら、祖父に酒の代わりに麦茶を注いだり、つまみを勧めながら自分もこっそり食べたりするのが常だったのだけれど。
"お前の顔はあの子によう似とるわ。せやけど、その目だけはあのロクデナシと同じ色やな "
その日、ひどく酒に酔った祖父はそう吐き捨てたあと眠ってしまった。

祖父に毛布を掛けて部屋を辞した後、洗面所に向かった。しん、と静まった廊下を歩く度、奇妙なほど青に沈んだ空間に足音だけが鈍く反響した。
パチリ、と電灯を点けると、ジジジッという微かな音と共に白々しい光が広がる。
ぐいっと身を乗り出し、鏡に顔を映した。

鏡の中から無表情にこちらを見返す視線。
祖父とも祖母とも彼女とも色味の違う、光を透かすと青みがかって見える虹彩。
彼女が時折僕の目を覗き込んで泣いていたのはそのせいか。
彼女がずっと待っていた"あの人"。
最後まで迎えに来ることはなかった"あの人"。
それと、同じ色を持っているのか。

その事実がようやく飲み込めた時、衝動的に自分の瞳に指先を触れさせていた。
部屋にいない事を気にした祖母が探しに来なかったら、そのまま抉り出していたかもしれない。
昔から行動が極端なんだよなぁ。
病院で診察を受けた後、無事眼窩におさまる眼球に思わず舌打ちしてしまった。
真っ青になった祖父母にもう二度としないことを誓わされたけど、正直自信はなかった。
ただ、幸いと言うべきか、それから極度に視力が落ちたから眼鏡をかけることになった。
硝子を一枚挟んだだけでほとんど目立たなくなるんだから大したものだと思う。


こればかりは貴女に綺麗な色だといくら褒められても一ミリも好きになれなかった。

5/3/2025, 11:10:46 PM