「夢と現実がどっちか分からなくなることってあるじゃん?」
個性豊かな作品が隙間なく飾られる美術室で、僕らは忙しなく動き回る生徒達を眺めながら中身のない話をしていた。
いくら適当な話をしたところで、彼らは僕らに目もくれず、来週発表が待ち構えているであろう美術作品に夢中である。
普通だったら先生に注意されるようなことでも、一ヶ月前にこの学校に来た僕らに何か言う先生は誰一人いなかった。
何故なら他の先生から今から作品を作っても発表に間に合うわけがないので好きなことをしてていいというお許しがでたからである。
まぁ、そんなことがなくても話の内容なんて分かりっこないのだが。
「夢から覚めて早々とかの話じゃなくてか。」
隣で何やら日本語を画用紙に書きながら返事をするのは、僕と同じく留学生である友人。彼とは小学校からの中であり、性格もろもろは置いといて英語に関しては頼りになる男だ。
「夢から覚めてとかじゃなくて、ふとした時にあ、これ夢かもってなること。」
日本語で会話する僕らに、聞き耳を立てている生徒たちは何人かいる。その子たちは現在進行形で日本に関する発表作品を作っている子達だった。留学の方針的には友人とも英語で話した方がいいのだが、やはりずっと聞き耳を立てられると気分は沈むもので。
今では美術室かカルチャーショックを受けたことなどの変な話題のみ日本語を使うことにしている。
「特にない。」
「夢見なそうだしな。」
じっと眉をひそめてこちらを見る友人を無視して、手元にある折り紙で暇を潰す。鶴ってどうやって折るんだったかと思い出しながら折っているため、かなりゆるゆるになっていた。
「夢と現実が分からなくなるなんて、夢遊病か何かだろ。」
「ならさ、正夢はどうよ。夢であったことが本当になるってやつ。僕は結構あるんだ。」
デジャブってやつか、冗談だろ。と鼻で笑われるが、僕は続けた。
「この前も、初めて会った人達に見覚えがあってさ。後々思い出したんだけど、1年くらい前に見た夢に出てきた人達だったんだ。すごい偶然じゃだろ?」
「お前の脳が勘違いで作り出したんじゃなくてか。」
「さっきから失礼だなお前。」
1羽の鶴が完成して、机の上に立たせてからまた一枚手に取る。鶴って誰が考えた折り方なんだろうか。
「ちょっと。ちょっと貴方!」
「よばれてるぞ。」
え、と手元から顔を上げると友人が顎で前を指した。
その先には目を輝かせて今僕が作った鶴をまじまじと見つめる生徒たちがいる。なに。鶴?
疑問に思いながら僕を呼んだであろう先生の方に目を向けると、満面の笑みで頷いた。
「貴方、一年と言わず卒業までこの学校に残りなさい!!とても素晴らしい作品だわ!」
「いや、え!?こ、光栄です!?」
日本なら作れて当たり前の折り鶴を、先生は素晴らしいと褒めたたえ、周りは教えてくれとねだり始める。
やっぱジャパニーズ文化って凄いのかと実感することが出来て嬉しい。
「私にも作って!」
「私にも!」
もはや作品を作ることなど忘れたかのようにはしゃぎまくる生徒を、先生が止める事もせず。
その盛り上がりは授業終わりのチャイムが鳴るまで続いた。
【夢と現実】
12/4/2023, 10:41:13 AM