川柳えむ

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 意識を失った瞬間は覚えていない。
 気付いたら、この膨大な記憶の海の中を泳いでいた。
 なんとなくわかった。これが走馬灯だと。
 流れる映像はどんどん古く遡っていく。
 でも、映る景色はどれもこれもしょうもない、価値のないものしかなかった。
 あぁ、自分の人生こんなもんか。
 死んで良かったのかも、悪かったのかもわからない。これから先、生きていようが、死のうが、どちらにせよしょうもないことしかない気がする。
 記憶を遡り続け、とうとうこの人生の始まりまで辿り着いた。
 そこに、記憶の海に埋もれていた、自分が誕生した時の親の嬉しそうな表情が映り、その瞬間、初めて後悔をしたのだ。


『記憶の海』

5/13/2025, 10:47:10 PM