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Special day


『なんでもない日おめでとう!』
軽快な足音が近づいて来たと思ったら背中越しから顔を覗き込む顔が一つ。

ニッカリと言わんばかりの晴れやか口元は三日月を作る。こちらのビックリした顔に満足したのかポン、と叩かれる肩と手持ち無沙汰な手のひらに乗せられた小さな可愛い飴玉はこちらにもニッカリとした笑顔を連れてきた。

『なぁに?不思議の国のアリス?』
まんまる顔のハンプティダンプティは微笑みかけるとわかった?と嬉しそうに答えた。

『そうそう!なんでもない日バンザイ!幸せやってくるおまじないね!』

それ、美味しかったからお裾分け!
差し出された手のひらいっぱいに抱えられた飴玉は色とりどりに輝いてまるで魔法がかかった宝石の様に見えた。

『TAKE CARE!』

たくさんあった宝石たちを片手分だけこちらの手のひらに乗せ替え終わるとニコニコ笑いながら片手を振って勢いよく去っていく。

こちらを振り返りながら走り去る姿にありがとうと返すことも忘れてその危なっかしくも慌ただしく去っていった姿が見えなくなるまで見送った。

『なんでもない日かぁ…』
手のひらに残されたピンク色の飴玉を一つ口に運ぶと桃の甘さが口いっぱいに広がった。

特別な日でもなんでもない今日が、飴玉がもたらした幸せで特別になる。どんより灰色な日がちょっとだけ色づいた気がした。きっと今日はいい日になるかもね、なんて。なんでもない日のなんでもない幸せに心が少し軽くなる。

『なんでもない日バンザイ』

口をもぐもぐと動かしながら口ずさむ。
先ほどと打って変わって足取り軽い自分に苦笑しながら飴玉をポケットにしまって仕事に向かった。

7/18/2025, 3:10:05 PM