#17 夢を見てたい
(#16の律視点)
響也が、学校にいる。
教室は夕日のオレンジに染まっていて、少し開いた窓の風で、前髪が揺れていた。
響也はギターを抱えて、優しく、旋律を置いていく。
言葉が出てこなかった。
あまりにも、完成していたから。
抱きしめなきゃならない。
思わず、響也のところへ駆け出して、
そこで、目が覚めた。
自分の部屋の机。
昨日は、ここで寝落ちたみたいだ。
「夢、か」
掠れた声が床に落ちる。
頬に湿っぽい感覚がして、手を当てた。
手の甲に雫がついている。
俺、泣いてるのか。
自覚した途端、涙が止まらなくなって、声を押し殺して泣いた。
しばらく泣いて、頭が痛くなった頃、スマホに手を伸ばす。
七時五十分。
やばい、もう家出ないと。
今日は、響也の家、寄れないな。
そう考えながら鏡の前に立って寝癖を整える。
顔を突っ伏して寝たせいで、おでこに跡がついていた。
目元は少し赤くて、いかにも、泣いてきました、って顔だ。
どうみても間抜け。
もし響也がドアを開けてくれたら、俺の顔見て笑うのかな。恥ずかしいから、見られなくてよかった。
学校に着く。
なぜか教室がざわざわしていて、近くの友達に声をかけた。
「echo が新曲出したんだ、一ヶ月ぶりに、待望の新曲だったから、めちゃくちゃ伸びてる」
echo、響也のことだ。
「まっすぐなラブソングで、みんな泣けるって、称賛してる」
そう言って見せられたのは、SNSのコメント。
急上昇ランキングの一位になっているみたいだ。
「聴く?」
差し出されたイヤホンを人差し指が触れる寸前で俺は断った。
「いや、大丈夫」
今聴いたら、俺、多分止められないから。
「そう?」
うん、と軽く頷いて口角を上げる。
先生が教室に入ってきて、みんなバラバラと席についた。
HRが始まる。
一日中、ぼーっと授業を受けた。
得意のサッカーも、初歩的なミスをした。
大好きな音楽の授業も、ただの雑音に感じた。
放課後、
「律ー、今日自主練くるよな?」
そう友達に聞かれた。
「あー、ごめん、俺今日ちょっと、」
いつもは参加するが、どうしても、そんな気分になれなかった。
軽く話を流して、荷物を背負う。
ぶっきらぼうにイヤホンを耳に突っ込んで、学校を出た。
echo 新曲_
検索欄に打ち込んで、少し躊躇する。
結局押せなくてそのままポケットに押し込んだ。
なぜか、音楽が流れ始める。
ポケットに入れた時に、触ってしまったらしい。
そんな気分じゃないから、とムカついて、音楽を止めようとした。
その瞬間、響也の爽やかな声が、耳を刺す。
俯いて歩いてた俺は、顔を上げた。
ごめん
扉に手をかけられなくて
君の前に顔を出せなくて
「もう会えないのかな」って
君の言葉が離れてくれない
手遅れかもしれないけど
もう一度チャンスをくれない?
心臓が、リズムを早める。
もしかして、俺に向けて?
そんな自惚れた考えが頭をよぎる。
いやいや、違う。
これは、まっすぐなラブソングだって、みんなが言ってた。
そう思いながらも、弾き語り動画の概要欄を開いてみる。
歌詞が書いてあって、その下に#がずらりと並ぶ。
誰に向けて、なんて、書いてあるわけないよな。
みんな、それを知りたいんだから。
書いてあったら、コメントで盛り上がってるはずだ。
わかっていても、並んだ文字列を一番下までスクロールせずにはいられなかった。
そこに書いてあったのは、
一番大切な、親友へ。
その、一言だった。
思わず、スマホを落としそうになって、イヤホンが抜ける。
あたりに、響也の曲が小さく響いた。
明日は、響也が出てくるまで、ちゃんと待とう。
学校に遅れても、休むことになっても。
手遅れじゃないって、分かったから。
1/13/2026, 10:02:30 AM