3/7「月夜」
「美しい月ですね。まるで―――」
「この世の終わりのよう」
令嬢はそう微笑んだ。「あなたのように」と言いかけていた侯爵は鼻白んだ様子で目をそらす。
「本当にこの世が終わってしまえばいいのに。あなたなんかと結婚するくらいなら」
「レディ」
「来世は」
令嬢は月を見つめる。
「来世は必ず、添い遂げて見せるわ」
令嬢は、月を、見つめる。
(所要時間:6分)
3/6「絆」
「離しても、いいんだぜ?」
ニヤリとヤツは笑う。まるで死ぬのすら怖くないような顔をして。
「誰が離すかっての」
アタシもニヤリと笑う。
高い荒波に揉まれる船、暴風雨にさらされた甲板で、アタシは手すりから身を乗り出してヤツの手を掴んでいた。
離せばヤツは一瞬で海の藻屑になるだろう。アタシの腕はもう限界だ。でも。
「腕が千切れたって、離してやるもんか」
「上等だ」
土砂降りの雨と雷の中、アタシたちは声を上げて笑っている。
(所要時間:7分)
3/5「たまには」
「たまには、俺がカレーでも作るよ」
「え? 材料の値段も見ないでやたら高いものばっかり買ってきて二度と使わないガラムマサラとか無数のスパイス揃えて台所めちゃくちゃ散らかして掃除もせず皿も洗わず俺が妻のためにわざわざ料理してやったんだぜってドヤ顔するために?」
「すみませんでした」
(所要時間:3分)
3/4「大好きな君に」
大好きな君に、会いたかった。最期に、もう一度。
だから、ボクは君のマンションを選んだ。
君の部屋の窓の前を通るように、落下した。
君は留守だった。
こんな事なら、勇気を出して普通に会いに行けばよかった。
閻魔様、ひねくれものは地獄行きですか?
(所要時間:4分)
3/3「ひなまつり」
♪灯りをつけましょぼんぼりに
お花をあげましょ桃の花
「ぼんぼりってお雛様以外で聞かないよね…」
「お雛様飾る家自体も減ったし、衰退してく文化かもねー。でも私は好きだな、ぼんぼり」
「おーい! 姉ちゃんたち、メシだってよー。何の話してたん?」
「ぼんぼりが好きだって話」
「何それ、美味いの?」
「リアルでその物言いは初めて聞いた」
(所要時間:5分)
3/2「たった1つの希望」
彼女いない歴=年齢、生まれてこの方モテた事のないオレ。
だが! たった1つ! 希望はある! それは!
VRだ!!!!
バーチャル・リアリティ。これさえあれば現実でモテなくとも彼女ができる! 早速試すぞ!
おお…これは! 可愛い美少女が目の前に! ちょっとだけ触ってもいいかな…。ん? 触れるのか?! でも意外と固い?
「…何やってるんだ、アキヒコ」
ゴーグルを外すと、そこにいたのは兄貴だった。
ノックぐらいしろっての!!
(所要時間:6分)
3/1「欲望」
10億円ほしい。仕事辞めたい。ハワイの海辺で永遠にのんびりしていたい。
と思いつつ、今日も残業。同僚は皆、先に帰った。俺はあいつらの後始末をしている。
―――ワーカホリック。
働きたくないのか、働いていたいのか。本当の欲望は、どこにある?
(所要時間:4分)
3/8/2024, 6:38:58 AM