鶴上修樹

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『柔らかい雨』

 雨は嫌いだ。空がどんよりしているし、湿ってるし、寒いし。そんな今日は、嫌いな雨の日である。
「……あーあ。うっかり忘れてた」
 暗めのリビングにて、電気代の支払いの書類を見て嘆く。この前、コンビニで必ずしなきゃと思ってて、やったのは新商品のカップラーメンを買っただけ。つまり、私は鳥頭。
「……行くかぁ」
 雨の日に出かけたくないが、支払いは待ってくれない。軽く支度をし、ビニール傘をさして、徒歩で近くのコンビニへと出かけた。雨は小降りだが、嫌なのは変わりない。
「はぁ。憂鬱……」
 落ちた気分で、約十分後。雨でも明るいコンビニに到着し、自動ドアをするりと通った。茶髪の女性店員の元気な「いらっしゃいませ〜」の声で、少しだけ心の曇りが晴れた。
「すみません。支払いをお願いします」
 傘を持ったまま、店員さんに支払いの用紙を渡す。私の対応をしてくれているのは、さっき元気な声を出した茶髪の女性店員だ。
「支払いですね。少々お待ちください!」
 女性店員はせっせとレジの操作をして、すぐに支払い代金を表示させた。財布の中の小銭が多いので、ちょうどよくする為に小銭を探していく。
「……小雨の日の空を眺めた事ってありますか?」
 小銭探しの途中、女性店員が私に声をかけてきた。女性店員は、話を続ける。
「私、雨の日って髪がぐしゃぐしゃになるから苦手なんです。でも、小雨の日の空だけは違くて。雨の日の空って厚い雲なんですけど、小雨の日の雲は少し薄めなんです。あと、薄い雲には、隙間があって……あっ、ごめんなさい。喋り過ぎました」
 どうやら、近くにいたベテランそうな男性店員が、彼女を睨んでいたらしい。彼女は私がトレーに乗せておいたお金をすぐに受け取り、レシートを渡してくれた。
「ありがとうございました〜」
 彼女に一瞥して、コンビニを出る。入り口の前で傘をさし、一歩前へ。その時に、目線が上にいった。雲は灰色なのだが、どこか青色が混ざっているように見える。
「あっ、あれかな……」
 たまたまあった、雲の隙間。覗いてみれば、雲の上にある青空が顔を見せていた。まるで、わずかな希望のようだ。
 ――言いたかった事、分かったかも。
 雨の日を好きになるのは、まだ時間がかかりそう。でも、小雨だけは許せるかな、なんて。
「……ちょっとだけ、ゆっくり帰ろうかな」
 歩幅を狭くして、道を歩く。嫌な心をほぐす、柔らかい雨の日の話。

11/6/2024, 1:09:05 PM