白米おこめ

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「どこかできっと逢えるから」と、
寂しそうに、それでもこちらの目を見据えて、
今から死んでしまうだろう先輩は泣きながら笑っていた。
それがどうしても心の中を巣食って、離れなくて、
苦しくて嫌になって、俺は怪具に手を出した。

マッチをひとつ擦る。

「どこかできっと逢えるから」と、先輩が
泣きながら笑っている。こちらを見つめる目は
ぼやけていて、あぁ俺も泣いているんだと思った。
思い出すと泣きそうになって、俺は怪具に手を出した。

マッチをひとつ擦る。

「きっと逢えるから」と、誰かが笑っている。
姿も何もかもぼんやりしているけれど、
なぜだか大切な人だということは覚えていた。
あと少しが思い出せないような状況が辛くて、俺は。

マッチを擦る。

誰かと会う約束をしていたのを覚えている。
でも、誰なのかが思い出せない。何をするのかさえ。
だったら、いっそのこと。きっと、忘れてしまった方が。

マッチを擦る。

誰かが笑っている。
ただそれだけの記憶。

そんなもの、いるか?


だから、マッチを…

からん、と空っぽになったマッチ箱を振った。
自分の周りには踏みにじって消されたマッチが数本
落ちている。記憶にはないが、使い切るまで何度も
何度も消したのだろう。

性質上、強い思い出ほど記憶は抜けにくくなる。
こんなに使うなんて、よっぽど忘れたかったんだなと、
俺はぼんやりとした誰かの笑顔を頭に浮かべる。
マッチを見つめていると、脳内でぱち、と何かが弾けた。
頭の中で、ぼんやりとした誰かの口が動く。そういえば、
先程の記憶の中でも、何か喋ってるような気がした。

その唇を脳内で追えば、言っている言葉はすぐに分かった。
これだ、と思った。これが忘れたかった理由なのだと。

「またね!」 白米おこめ

3/31/2025, 3:49:50 PM